市民による諫早干拓「時のアセス」報告書要旨

5. 財政 費用対効果評価
(愛知大学経済学部教授 宮入 興一氏)

●政策評価と土地改良法による費用対効果分析

諫早湾干拓事業は、土地改良法に基づく「国営干拓事業」であり、事業の認可に必要な要件」として、同法施行令第2条第3号は、「事業のすべての効用がすべての費用をつぐなうこと」を求めている。

費用便益分析は、常に「社会的便益(効果)」だけではなく「社会的費用(損失)」について、とりわけ再生不能の「絶対的損失」について慎重に考慮し、さらに、単に事業の効率性だけでなく公平性や公共性をも斟酌しなければならない。

●農水省による諫早湾干拓事業の費用対効果分析の問題点

農水省の費用対効果分析における経済効果には、農地造成による作物生産効果といった内部効果だけでなく、交通費節減効果や国土造成効果等の外部効果(社会的便益)など、様々な「効果」が算入されている一方で、「費用」には、単に工事費を中心とする「総事業費」が計上されているにすぎず、特に事業によって失われる貴重な干潟生態系などの「絶対的損失」が完全に度外視されている。
農水省の費用対効果分析(99年の変更後)の問題性は主に次のように指摘できる。
    1. そもそも費用対効果が1.01と極めて低い。
    2. 事業費が1,350億円(当初計画)から2,490億円(99年変更後)に増加した一方で、年効果額が約85億から約162億へと1.9倍となっている。中でも「災害防止効果」が大幅に増加し、最大のウェイト(約6割)を占めるに至っている。
      しかも防災効果の算定には、次のように様々な疑問がある。
      ・被害想定地域が恣意的に設定されている
      ・災害で既存の堤防のほとんどが一度に崩壊するという過大な想定となっている
      ・堤防の価値を現在価値ではなく、再建設価格で算定している
    3. 「土地改良事業」であるにもかかわらず、「作物生産効果」が全体の18.5%に過ぎない。
    4. 費用として算定すべき「外部不経済」の内、算入されているのが漁業補償費だけであり、失われる干潟の浄化機能などについては、「貨幣評価方式が確立されていない」との理由で、「ゼロ」と評価されている。
諫早湾干拓事業の投資効果に、諫早干潟の喪失などの「社会的費用」が正当に算入されれば、事業の社会的な効率性は、ほとんど問題にならないほど低いものとなる。

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