4. 環境 諫早湾干拓アセスと有明海異変
(長崎大学教育学部教授 東 幹夫氏)
● 環境アセス・モニタリングにおいて有明海への影響が軽視されてきた。
- 九州農政局による事業の環境アセス「総合評価」では、諫早湾奥部が消滅することの有明海への影響は、「計画地の近傍に限られる」と断定しているが、根拠が不十分で説得性に欠ける。
堤防閉め切り後の調査も、調整池を含む諫早湾内にほとんど限定され、諫早湾外の有明海についての調査は、極めて不十分なものである。
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●調整池は富栄養化が進行し、諫早湾外では、環境悪化・漁業被害などの「有明海異変」が顕在化した。
- 調整池内の水質はアセスの予測を下回り、富栄養化が深刻化している。
諫早湾口中央部では、海砂採取地の巨大な窪地が底生動物生息密度の激減を招いている。
諫早湾口周辺から有明海奥部にかけて底生動物生息密度が年とともに減少している。
有明海域における赤潮発生件数は、事業着工以降、年を追って激増しており、堤防閉め切り後に有毒な赤潮による漁業被害も発生している。
珪藻プランクトンの増殖によるノリの色落ちのみならず、タイラギ、ガザミはじめ多くの魚介類において、着工ないし堤防閉め切り後の漁獲量の激減が伝えられている。
●原因は、諫早湾干潟消滅にともなう浄化機能の喪失と潮受堤防建設による潮流の変化である。
- 「有明海異変」の原因のすべてが諫早湾干拓事業ではないとしても、全く無関係ではありえない。
堤防閉め切りにより、調整池が淡水化され、底生生物や魚介類をによる水質浄化機能が失われ、諌早湾奥が切り取られたことによる固有振動の変化が、有明海の潮汐を弱めた。
有明海特有の強い潮流により、海の底層まで酸素を供給したシステムが崩れ、浮泥の挙動の変化が、さらに水質浄化や底生動物の生育に悪影響を与えたと考えられる。
●諫早湾干拓事業を中止し、水門開放による干潟の回復を目指すべき
- 現状のままでは、潮汐の弱化、密度成層の発達、貧酸素〜無酸素水塊が広がり、底生魚介類の減少や浮泥の沈積による浄化機能の喪失により、「有明海異変」は解消しない。
潮受堤防の水門を開放し、調整池に海水を導入すれば、有明海の生態系は時間と共に改善の方向に向かうことは明らかである。
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