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≪研究者共同声明 2≫

あらためて開門調査を求める

2003年12月22日

 東 幹夫(長崎大学教授)    安東 毅(九州大学名誉教授)
 石賀裕明(島根大学教授)    宇野木早苗(元東海大学教授)
 佐々木克之(元水産総合研究センター室長)
 佐藤正典(鹿児島大学助教授)  堤 裕昭(熊本県立大学教授)
 宮入興一(愛知大学教授)    村上哲生(名古屋女子大学教授)


 私達は12月15日に「有明海再生のために開門調査は必須である」との共同声明を発表した。その中で、専門委員会報告の中の開門調査によって成果が得られないという見解の非科学性と4点にわたる開門調査の必要性を指摘した。この共同声明には現在161名の研究者の賛同が寄せられている。同じ頃、佐賀県、熊本県および福岡県の県議会から開門調査要求が出された。その後、12月19日に第8回中・長期開門調査検討会議が開催されて、開門調査の及ぼす影響と対策および検討会議の論点整理が論議された。私達はこれらの資料を検討して、以下に述べるように研究者の立場から、あらためて開門調査が必要であることを確信し、そのことを公表して、検討会議委員はもちろん、国民各位のご判断の材料としていただきたい。以下に簡潔に結論を述べる。詳細は添付資料を参照していただきたい。

1. 開門調査の有効性・必要性の論議が不十分である

1) シミュレーション万能論批判・・・開門調査の有効性を疑問視する見解に対する批判はすでに12月15日の声明で述べているので、繰り返さないが、シミュレーション万能の見解について述べる。有明海や諫早湾の流動その他の現象は複雑であり、調査によって開門の影響を評価することは困難である一方、コンピュータを用いたシミュレーションは有効であるので、調査せずにシミュレーションで行うのが適当であることが述べられている。シミュレーションの意味は、まねる、模倣するという意味で、海域の状態をまねてモデル化することによって、このモデルに変化量を入れると、変化に応じて海域の状態がどう変化するのか予測する手法である。したがって、まずモデルで模倣することができなければ意味のないものになる。現段階では、潮位の変化を模倣し、潮流についてはある程度模倣できたかどうかの段階であり、赤潮、底質などを模倣する段階にはない。したがって、調査ではわからないことがシミュレーションでわかるというのは、有明海の現象については現段階ではあてはまらない。潮受け堤防の有無によるシミュレーションによって、潮流の変化は少ないことがわかった、と述べても、実際に調査した結果と比較しなければ、これは単なるお話になってしまう。このことをぜひ認識していただきたい。

2) 開門調査で検証すべき課題・・・12/19検討会議に提出された「論点整理(案)」では、今までの研究結果が整理されているが、開門調査で期待される具体的成果が抜け落ちているか、無視されている。短期開門調査によってすでに調整池の浄化機能がある程度回復したことを示す結果が得られている。また、同じく短期開門調査時に有明海奥部の海洋構造が変化した可能性を示す結果も得られている。さらに、1997年に諫早湾が締め切られて以降、有明海中央部全体の底質が細かい砂に変化していることも明らかにされている。これらのことは、シミュレーションではまったく示されていないことであり、開門調査によって検証すべき課題である。検討会議はこれらの成果も踏まえて、具体的な開門調査の実施方法を報告すべきである。

2. 開門調査により生じる影響をもって開門調査の障害とすることはできない

西日本新聞は20日の社説で、農水省が、中・長期開門調査を実施した際の対策費を試算し、公表したことを、「こうした試算を、なぜ検討会議の席上で公表するのか。費用にとらわれて、開門調査の是非を判断してはならない。あくまでも(検討会議の役割は)、有明海の環境異変の原因を究明することにあるはずだ。」と述べた。まさに正論である。対策内容を検討してみると、科学的根拠が不明確であり、検討会議委員に対して、これだけ費用がかかるので開門調査はやるべきでないと示唆するために試算したと批判されても仕方がないものである。以下にその理由を述べる。

1) 「浮泥による影響を回避」の問題点・・・農水省が12/19検討会議に提出した「中長期開門調査の及ぼす影響と対策について」では、開門することによって生じる浮泥による悪影響を回避するために工期3年で423億円が必要であると明らかにされている。この経費は主に、開門時に調整池から排出される多量の浮泥による漁場環境の悪化を回避するために調整池浚渫費用として計上されている。しかし、通常の開門していない状態ですでに多量の浮泥が諫早湾に排出されている事実を忘れるべきではない。一方短期開門調査では、海水導入に伴い調整池の浮泥濃度が著しく減少していることも述べている。したがって開門して、一時的に調整池内に蓄積した汚濁物質が排出されるにしても、その後は多量に浮泥が排出されることはないと推定される。農水省はこの影響を回避する浚渫その他の工事が不可避であるとの根拠を示すべきである。開門当初は流速を抑えてまず浮泥の凝集沈降を促したり、それでも万が一漁業被害が生じることがあれば、その補償をすることの方がはるかに低い額(数%)で済む。したがって、開門調査を実施する障害とは考えられない。

2) 調整池水位上昇によるポンプ稼動のための経費の問題点・・・ポンプは平常時は調整池の水位が上昇するため、陸域にたまった水を排水するために、また洪水時には防災のため必要と述べているが、必要とされる155m3/秒の根拠がはっきりせず、曖昧である。97年の締め切り以降、後背地クリークの拡幅整備や大型排水機場建設によって調整池に頼らない湛水対策は相当に進展しているはずであるが、この分も考慮された数値なのかどうかを含め、データの詳細を明確にすべきである。202億円必要というだけでは説明責任を果たしたことにはならない。

3. 非科学的な論拠で有明海百年の計を誤ることは断じて許されない

 はるか大昔から豊穣の海であった有明海は、戦後の埋め立てその他の開発の上に、諫早湾干拓事業で壊滅的な打撃を受けた可能性が高いと多くの漁民が考えていて、私達も科学的根拠からそのように考えている。しかし、この見解には異論もあるので、この異論も含めて皆が納得する方法としてノリ第三者委員会が開門調査を提案したものである。この提案を、シミュレーションでわかるとか、調査しても何もわからないという非科学的な論拠で否定することは許されない。さらに、開門調査の影響を除くためと称して多額の予算が必要なことを示すことは、調査しないための方策と受け止められかねないものである。検討会議は、有明海百年の計を誤らないために、あくまで科学的見地にたってまとめを行わなければならない。

以上


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