東 幹夫(長崎大学教授) 安東 毅(九州大学名誉教授)
石賀裕明(島根大学教授) 宇野木早苗(元東海大学教授)
佐々木克之(元水産総合研究センター室長)
佐藤正典(鹿児島大学助教授) 堤 裕昭(熊本県立大学教授)
宮入興一(愛知大学教授) 村上哲生(名古屋女子大学教授)
私たちは、中・長期開門調査を実施すべきであるという科学的見解(以下、共同声明)を昨年12月の15日と22日の二度にわたって発表してきた。しかし、残念ながら中・長期開門調査検討会議(以下、検討会議)が同25日に農水省に提出した報告書では、私たちの共同声明は無視されている。農水省はこの報告書を踏まえて近い時期に開門調査について判断すると報道されているが、私たちは以下に述べるように、有明海再生のためにこの開門調査は絶対に避けて通れない問題と考えている。検討会議が出した報告書に対して複数の新聞社が社説を報道したが(資料参照)、すべてノリ第三者委員会提案の開門調査を実施すべきとしている。この提案では、「諌早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諌早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、また、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる。現実的な第一段階として2ヶ月程度、次の段階として半年程度、さらにそれらの結果をふまえて数年の、開門調査が望まれる」と述べられていた。この第三者委員会の委員長であった清水誠・東大名誉教授も、「検討会議の報告書は納得できない、調査によって有明海異変の手がかりが得られるはずである」旨述べている。農水省には、私たちの共同声明やこれらの新聞報道も含めて得られた情報を科学的な立場から検討し直し、国民に十分な説明責任を果たすとともに、有明海百年の計を誤らない判断をされるよう訴えるものである。
有明海再生のために諌早湾の開門調査が避けて通れないということは、すでにこれまでの私たちの二つの共同声明の中で述べている。その要点は以下のとおりである。
- 1) すくなくとも有明海奥部海域に関しては、諌早湾干拓事業と漁獲量の減少、赤潮の発生頻度や規模の増加、底質の細粒化とが時期的に対応していることから、本事業が90年代以降のこの海域での漁業衰退の主たる原因であるという疑いがあり、これを検証するものとして開門調査が位置付けられている。この位置付けを否定する科学的な根拠は検討会議やその専門委員会でも示されていない。
- 2) 昨年実施された一ヶ月足らずの短期開門調査でも、調整池の水質が相当改善されたことや、閉門時とは異なる潮目の発生が確認されたのに、そのことが今回の検討会議報告ではまったく触れられていない。さらに最近発表された調査結果によって、諌早湾の潮受け堤防締め切り以後に有明海全体の底質が細粒化していることが判明したが、これは有明海の潮流が鈍化したことの証左でもある。
私たちは以上のような科学的な知見をふまえて、諌早湾干拓事業の影響を明確にするために中・長期開門調査を実施すべきであると考える。こうした知見を無視してまとめられた検討会議報告書は、論点整理としても不充分きわまりない。
さらに検討会議とりまとめの最終段階に、開門調査を実施するには600億円以上の経費が必要であることが突如示されたが、なぜそのような多額の費用が必要なのか、根拠が示されていない。そもそも、中・長期開門調査の期間や調査項目がまだ決定されていない現段階では、費用の算出は不可能なはずであるし、事実、検討会議ではその内容の論議さえされずに終わっている。恣意的に一つの例を想定し、高額な費用を提示することは、公正な態度とは言えない。したがってここで示された高額な経費が、中・長期開門調査の実施を妨げることがあってはならない。
(注) ノリ第三者委員会 清水誠委員長 検討期間01年2月〜03年3月
中長期開門調査検討会議 委員は官僚OBのみ 03年4月〜12月
同 専門委員会 塚原博座長 03年7月〜12月