ムツゴロウは今(諫早湾ムツゴロウ裁判・東京報告会レポート)

*ニュースレター「SAVE THE RIVER NEWS さがみ」より、金尾憲一さんのご了解を得て転載させていただきました。


SAVE THE RIVER NEWS さがみ151(相模川151)
               1999年11月17日
               相模川キャンプインシンポジウム
               相模大堰建設差止訴訟原告団
               相模大堰建設差止訴訟を支える会
               相模大堰監視委員会
               事務局:0427-56-6916(岡田)
               文責・発信:金尾憲一 
          
http://www3.justnet.ne.jp/~kanaoken/oozeki/OOZEKI.htm
e-mail:kanaoken@ma3.justnet.ne.jp

{ムツゴロウは今}
 諫早湾の潮受け堤防が締め切られて、早くも2年半ほど経ちました。時間が経過するとともに、マスコミへの露出度は下がってきましたが、問題が解消さえたわけではありません。かくいう私達も、当初は東京での集会にスタッフを出したり、集会に参加したりしていましたが(うちの娘の初デモは、堤防開放を求める東京デモでした)、今ではホームページの背景を黄色くして支援の意思を示しているにとどまっています。まったく申し訳ありません。派手な活動が下火になる一方で、裁判や国会での追及と言った地道な活動は着実に積み重ねられていて、着実に実績を積み重ねています。
 裁判は、1996年にムツゴロウを含む原告により提訴されましたが、この10月に裁判官による現地検証が行われたということで、今回これまでの経過と、現地検証の成果を報告する集会が東京でありました。私達は以前より、自然の権利を主張している裁判を持っているということで、集会や、報告集に参加させてもらっています。
 11月13日(土)13:30から、豊島区民センターで開かれた諫早湾ムツゴロウ裁判・東京報告会に、例によって2人の子供を連れて参加しました。この集会で非常にありがたかったのは、保育があったことです。私が知る範囲で、自然保護系の集会では2回目です。大変助かりました。ありがとうございます。残念なことに、せっかく用意してくださった保育を利用したのは、私だけだったということです。自然環境の問題、税金のムダ遣いの問題は、子育て真っ最中の世代こそ、よく知り、よく考え、発言していかなければならないはずです。子連れでこのような集まりに参加するとなかなか集中できないものですが、せっかく保育を用意してくれているのですから、子連れで積極的に参加してもらいたいものです。さて、今回のスピーカーは、原告で愛野町議の原田敬一郎さん、諫早干潟緊急救済東京事務所の陣内隆之さん、弁護士の籠橋隆明さん、自然の権利セミナーの佐久間淳子さんの4人でした。会場には、約100人ほどの聴衆が集まり、その中には、生田緑地、里山・自然の権利訴訟の原告や、金沢の辰巳用水を守る運動をされている方、その他あちこちでお見かけしたような方々も数多く参加されていました。公式記録は主催者にお任せするとして、私の個人的な印象を紹介しましょう。
諫早干潟緊急救済東京事務所 Tel/Fax:03-3986-6490
e-mail: isahaya@msj.biglobe.ne.jp
http://www2s.biglobe.ne.jp/~isahaya/
「自然の権利」基金 Tel:052-249-3921 Fax:052-249-3908
e-mail: VEL01206@nifty.ne.jp


 まず原告の原田さん。原田さんとは、1年半前の「自然の権利」シンポジウムで御一緒させていただいたのですが、失礼ながらお顔は思い出せませんでした。ただ、歌だけは非常に強く印象に残っていました。この日も、会場の片隅で、ギターとハーモニカを入念にチェックしている兄ちゃんがいて、何時使うんやろうななどと、思っていたら、その人が原田さんでした。原田さんは、自分の生い立ちから、今日裁判に踏み切った思いを話されました。中でも、幼い時、何回も船から海に落ちて、普通なら助からないところを助かって、まわりの人達から、港には必ず祭られているという竜神様に見込まれた子供だといわれたことや、湾が閉め切られたいま、その湾で潮の満ち引きとともに、船の仕事をしていた人は、時計を奪われたように生活のサイクルが乱され、生活が狂ってしまったことが印象的でした。自作の歌も歌われました。御自身の思いが込められているだけあって、聞いている私にも伝わるものがありました。それから、自分が無知だっただけなのでしょうが、干拓したからといってすぐ優良な農地になるわけではないそうです。お上にまんまと刷り込まれてしまいました。事業の目的が「優良な農地の創出」ですから、干拓すればすぐに優良な農地が手に入るものだと思っていました(農家の経済負担は別として)。しかし実際は、海だった場所をそのまま使うために、土中の塩分が多く、耕作するにしても作物が限られるそうです。当面はお米ぐらいしかだめで、10年スケールで時間がたって、塩分が抜けていって初めて他の作物が作れるようになるのでだそうです。このあとの陣内さんの報告で出たのですが、干拓地内にある農水省の小江干拓試験圃場は、タマネギやらキャベツを作って自慢しているそうですが、ここは上から土を盛って埋めたてた場所であることを現場で認めたそうです。水も調整池のものではなく、外から引いてきているそうです。減反政策をしておきながら、お米しか作れない農地を作るとは。その一方で食料の自給率を上げなければならないとも言うし。さらに、諫早湾内の古い干拓地は放棄された耕作地もでています。

 次に、諫早干潟緊急救済東京事務所の、陣内隆之さんから、現地検証の報告がスライドを交えてありました。1999年10月27日、朝10時から夕方4時過ぎまで、丸1日かけて現地検証は行われました。前日の雨が上がり、非常に良い天気だったそうです。2年半で干潟は、すっかり草ぼうぼうの空き地と、水の汚れた溜め池になっていました。調整池という名の溜め池は、淡水化しているそうですが、ひどい時には高台から見ると、堤防の外に比べて黄色く見えるほど汚れているようです、水門から、池の水がどの様に流れているかよくわかります(この水を農業用水にする計画だそうです)。こういう状況をマスコミにすっぱ抜かれて、最近は水質が極端に悪化しないようにはしているようです。検証は、湾を一望する高台から始まり、干拓地を一回りする形で行われました。原告側は、場所場所で、生態系へのダメージ、不要な農地を造成しているに過ぎないこと、防災上の効果がないこと、軟弱地盤で大型構築物を建造することは危険であること(現実に、農協のカントリーエレベーターは、建物の周りが沈下しているようですし、潮受け堤防自体からして、部分的に壊れた部分もあるということです。)などを主張しました。被告は、どこの裁判でも同じですが、例によって自分たちの正当性を終始主張しつづけたそうです。

 3番目は、弁護団の籠橋隆明さんです。籠橋さんは、奄美自然の権利裁判(原告アマミノクロウサギ他)をはじめ、多くの自然の権利訴訟にかかわってこられました。今回は、自然の権利の概念、訴訟という形態との結びつき、そして、ムツゴロウ訴訟を起こすまでに至った、法律面の経緯を話されました。生物の保護といえば、特定の種だけを守れば良いということになりがちですが、自然の権利の概念は、生態系丸ごとの保全を主張していることが特徴で、しかもその「自然」は、人跡未踏の「自然」はもちろん、日本の里山のように、人間の介入がかなりあるものも含まれます。生態系を守るということを、日本の法体系の中で主張することは、非常に難しいことです。人間が、お金で換算できるような損害を受けないと難しいらしいです。ただし、「損害」の概念も時代とともに変化します。今日、何件かの自然の権利訴訟が起こされ、ほとんど門前払いにならず進んでいます。奄美とオオヒシクイ(茨城県)、そしてこの諫早は現地検証まで実施されました。裁判官が現地まで出かけるのは非常にまれです。横浜地裁は、相模大堰の裁判でも、生田緑地の裁判でも現地検証は行っていません。現地検証が行われたというところだけみても、大きな成果といえると思います。今回のムツゴロウ訴訟は法的根拠に弱い点があるということなので、そこを強化して別な観点から今後攻めていくそうです。

 最後に「自然の権利」セミナーの佐久間淳子さんが、「自然の権利」の概念的な整理、「自然の権利」運動の内容と経緯、日本で行われている訴訟を話されました。この中でも、面白かったのは、特に動物原告を立てる場合、人間の原告や周辺の運動体メンバーは、裁判することを楽しんでいるふしが見うけられるという指摘です。動物を原告に仕立てるというのは、人間以外の生物にも生きる権利があるという思いはもちろん、マスコミの注目度をあげるという運動的な戦略もあるでしょう。さらに、「面白がっている」側面があるのではないかということです。役人に対して「おちょくり」「いちびり」を行うことは、役人は侮辱されたと思われるかもしれませんが、「面白がる」とか、「発想の柔軟さ」というのは役人のもっとも弱い部分です。面白くて効果的な攻撃かもしれません。また、原告になる動物も、アマミノクロウサギといった天然記念物から、時間が経つにつれ、ちょっと前ならどこにでもいたという類の生物に移り変わってきています。藤前干潟の訴訟では、動物原告すらありません。「自然の権利」という概念が、普遍化してきていることの現れではないかということです。相模大堰訴訟も紹介していただきありがとうございました。

 この後、若干の質疑を行い、今回の報告は以上で終わりました。結局のところ、土建屋さんは仕事があればいいわけですし、農家や一般住民は浸水被害が出なければいいわけです。農地は余っているわけですから、干拓という事業形態は成立しません。補助金を出してしまった、もらってしまったという関係を無理なく清算できる仕組みを作れば、解決の糸口は見えてくると思うのですが、どんなもんでしょうか。


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