ラムサール会議応援コスタリカエコツアー参加報告
ラムサール条約COP7報告会
(1999年6月4日・文京区民センター)での発表

陣内隆之(諫早干潟緊急救済東京事務所ボランティア)

 どうも皆さん、こんばんは。諌早干潟緊急救済東京事務所の陣内です 。「ラムサール会議応援コスタリカエコツアー」からのご報告をさせていただきます。

 以前からコスタリカという国が自然保護に熱心でエコツーリズムが盛んな国と聞いていましたが、今回のラムサール会議がそのコスタリカで行われるということから、「会議の様子も実際に見てみたいし、エコツーリズム先進国といわれるコスタリカの取組や実際のフィールドを体験したみたいよね。それなら会議の応援を兼ねて自然豊かなコスタリカに行こう!」という話になり、今回のツアーが企画されました。

 諌早・東京事務所がツアーを企画広報することで、日本でのこの会議への関心を高めたいなどいろいろな狙いもありますが、実はそんな「遊びながら学ぶ」ツアーからのおまけの報告ですので、息抜きのつもりで楽に聞いて下さい。

 今回のメンバー17名は、諌早東京事務所をはじめ九州・沖縄・瀬戸内など全国各地の干潟保全活動で頑張っている人たちを中心に、ラムサール会議というひとつの目的で集まったので、直ぐに親近感も生まれとても楽しい旅になりました。皆さん味のある方ばかりで、お互いの連帯感も生まれました。

 これが今回のツアー9日間の日程表です。5月8日に成田を発ち、前半はラムサール会議やINBIO訪問、後半は各自然保護区の観光という形を取りました。短い日程の中欲張ったツアーでしたが、参加者の皆様のご協力により充実したツアーにすることができました。

 これがコスタリカの全国地図ですが、私達はまずここサンホセで数日過ごしました。詳しい報告はまた後ほどしますが、途中ここアエリアルトラムにも行きました。そして後半はここサンカルロスに泊まりロスチレスへ行き、ラムサール登録地であるこのカーニョネグロ野生保護区を観察。そしてフォルチューナからアレナル湖を経由して熱帯雲霧林であるモンテベルデ自然保護区へ。帰りは太平洋側のカルデラ港に寄り道してサンホセへと向かいました。

  以下、この日程に沿ってスライドと共に話を進めたいと思います。

 実はコスタリカの天候は、午前中は良い天気なのですが決まって昼過ぎにスコールがあり、夕方にはまた晴れるという日が続きました。

<NGO会議>

 二日目午前中の市内観光の後、午後はNGO会議の傍聴に参加しました。この内容については既にご報告の通りですが、先住民代表者など各NGOの方々の白熱した議論が印象に残っています。

<生物多様性研究所(Instituto Nacional de Biodiversidad)>

 三日目午前中は、山下さんや辻さんと共に生物多様性研究所(INBIO)を訪問しました。

 生物多様性研究所(INBio)は、コスタリカの生物多様性の保全と賢明な利用の実現を目的に政府、大学、国際機関、NGOなどの協力のもとに1989年に設立された非営利組織です。

 私達は葉切りアリの路上行進の歓迎を受けた後、一室にて美しいガイドさんの説明を受けました。それによると、 INBioの基本方針は、TO KNOW、TO USE、TO PROTECT(知る、使う、守る)の三つです。

TO KNOW 生物多様性研究所の大きな目的は、コスタリカ国内の生物標本を収集することです。最近の標本収集は、植物、昆虫、無脊椎動物、線虫などを対象としています。植物はほとんど調べつくされており、未分野は少ないという話でした。

TO USE  INBioではまた生物に含まれる物質から医薬品などを開発することも試みています。現在10社と契約を結び、医薬品、香水、バイオ農薬などを開発しているそうです。これがその開発室の様子です。実際訪れてみるとまだ発展途上段階のような気がしました。

TO PROTECT  INBioはグアナカステ保全エリアと協力して、周辺の自然環境を研究すると同時に環境保全も行っています。また、研究所の成果を生かし、環境教育も実施しているそうです。

  INBioではパラタキソノミストと呼ばれる生物採集のスタッフが働いています。彼等は全てコスタリカ人で、INBIOで研究補助スタッフとしての人材養成を受けています。パラタキソノミストは地域に詳しく保全エリアと地元住民との共生関係を育てるという重要な役割を担っています。

  INBioではあらゆる人への可能性を導き出し、誰にでも開かれた機関であることを強く感じました。また、巷で掲げられているものの実行にはまだ程遠い賢明な利用への近道の鍵を握っているのではないかとも感じました。そして、日本でもこうした仕組の機関が増えることを願いたいと思います。

 INBIOは、生物多様性のみならず、組織のあり方にも多様性を感じる機関でした。

<本会議>

 この日の午後はいよいよラムサール会議・本会議の傍聴です。

 実はこの日を迎えるに当たり大量の英語の資料が事前に家に送られて来ていました。

 会議場ロビーでは各国NGOのブースで大変賑やかでしたが、私達・諌早東京事務所ボランティアや他のツアーメンバーからは「日本の干潟の現状を世界にアピールできるチャンスだったのに」とブース申込しなかったことを残念に思う声があがりました。

 本会議では私自身はやはり言葉の壁にやられました。会議の雰囲気は味わえましたが、その内容を理解することはできませんでした。ただ、この日はコスタリカNGO代表のメリッサ・マリンさんの歴史的報告の場に立ち合うことができたことは収穫でした。実はこの帰り道、山下さんがとても感激して解説してくれたので、その意味がようやく分かりました。

 それに環境庁の皆さんがメリッサの報告にエールを送ったり、翌日に日本NGOとの意見交換会をセットするなどとても友好的なことに期待を持ちました。

 ただスケジュールの都合上、その意見交換会や12日の辻さんや環境庁による藤前干潟保全の報告など日本に関係した報告や討議に参加できなかったことはとても残念でした。

 また、本会議の合間を縫って柏木さんや東梅さん、伊藤よしのさんほか日本のNGOの方々は精力的な活動をされていましたが、その一部を拝見しとても頭が下がる思いでした。特に中池見湿地の斉藤さん達の活動は、世界に中池見の現状をアピールすることに成功されとても感動的でした。

<ブラウリオ・カリージョ国立公園(アエリアルトラム)>

 さて、四日目午前は予定を変更して、やはり山下さん・辻さんと共にアエリアルトラムを訪れました。

 アエリアルトラムは、ブラウリオ・カリージョ国立公園隣接地にあり、ゴンドラに乗って高さ10m〜50mの樹冠から熱帯雨林を観察出来るように工夫された、エコ・ツアー用の施設です。建設は資材をヘリコプターで運ぶ等して自然へのダメージを最小限にして行われたそうです。また、施設の入場料は50ドルと比較的高いのですが、その収益は、周辺の傷んだ植物の補修費や、現地の子供達の環境教育費として使われています。

 熱帯雨林を樹冠から観察すると、地上から見るのとは違い着生植物が間近に見られ、またアリクイ、はりねずみ、あなぐまなどの動物を見た人もいました。

 またガイドは学生なども必要に応じて揃えていて、彼らにとってはネイチャーガイド養成の場ともなっているようでした。

<インフォーマルワークショップ>

 午後は日本・韓国の潮干帯湿地の保全に関する勧告について討議するインフォーマルワークショップに参加しました。ここでは、フィリピン・日本・韓国が協力して一つの決議案について熱心に討議している姿を見て、アジアの連帯感を感じました。

 会議終了後、私達はJAWANビデオ英語版を上映しているロビーに直行しました。このビデオは多くの政府関係者にも見ていただけたと聞いています。そして日本の干潟の実状を世界にアピールできたのではないかと思います。

 こうして、ラムサール会議を体験したツアー一行は、サンホセを後に一路サンカルロスへと急ぎました。

<カーニョネグロ野生保護区>

 ツアー後半の五日目、私達は心地よい朝を迎えたサンカルロスから凸凹道に揺られながらカーニョネグロ野生保護区の観察基地・ロスチレスに向かいました。

 ニカラグア国境に近いこのカーニョネグロ野生保護区は、ラムサール条約の登録地になっている湿地帯で、多くの鳥類が生息していることで有名です。。

 カーニョネグロ湖へ流れるフリオ川を下っていけば、へび鵜やトラサギ・シラサギなどの水鳥、さらに5種類ものカワセミやフライキャッチャーなどカラフルな鳥達、そして世界で一番美しいトカゲといわれているバシリスクや小型のワニのカイマン・イグアナなどの爬虫類、そしてコウモリやリバータートル、樹間にはホエ猿など多彩な生き物を見ることができました。

 一方で、所々河畔林の向こうに牧草地や人家が見え、実はとても薄い林だということに気付きました。地元の人が、ボート観光でこの環境を活用しているのは確かでしたが、地域のNGOも存在しないということなので、今後の保全が懸念されます。

<モンテベルデ自然保護区>

 翌六日目はモンテベルデ自然保護区を観察しました。

 このモンテベルデは、一年の75%が霧に覆われているという熱帯雲霧林地帯にある自然保護区で、標高は1,300〜1,800メートルくらいにあり、民間の財団により寄付や入場料などによって管理運営されています。

 主に5つの遊歩道が設定されており、私たちは午前中約3時間のコースをナチュラリストガイドの案内で散策しました。ツーリストによる自然への影響を配慮し、人数制限は厳しく、一つのコースに30人、全体で150人を越えないよう入り口でコントロールしているとのことでした。

 雨が降らない時期でも常に霧による湿気があるため、着生植物が豊富でラン、プロメリア、シダ、コケ類などの着生植物は、8,000種類にも及ぶと言われています。

 この熱帯雲霧林にはいろいろな動物が生息しており、400種以上の鳥類も確認されています。中でもなんと言っても歩き始めてすぐのケッツアールとの出会いは感動的でした。尾が長く、緑と赤の羽を持つ世界で最も美しいといわれる鳥で、バードウォッチャーの憧れの的です。

 また、真っ青な美しい羽を持つモルフォ蝶や、様々な色や大きさの可憐なハチドリも見られました。

 今回のツアーを通じてナチュラリストガイドをしてくださったペドロさんが所属している「モンテベルデ ガイド アソシエイション」では、1年前から森林回復プロジェクトととして、自生植物の植林を行い、保護区を広げるための活動も始めているとの事でした。

 モンテベルデ周辺には、大小いくつかの保護区があり、エコツアーが盛んに行われているとのことです。今回は半日の滞在でしたが、次回機会があれば、ぜひゆっくり滞在したいと思う場所です。 
<カルデラ港>

 こうしてモンテベルデを観察した私達は、また激しい雨が降ってきたこともあり、急いでサンホセへ戻りました。途中、海を見たいという希望により、少し遠回りをして太平洋側のカルデラ港に立ち寄りました。干潟の生き物が少ないのが気になりましたが、森から海へ下りてきて広々とした美しい風景が印象的でした。

<まとめ>

 以上が今回のツアーの内容ですが、振り返ってみるといろいろな効果や収穫がありました。

 まず、会議に合わせてエコツアーを企画したこと自体が、私達を含め関心のある人の国際会議への参加を容易にすることができたと思います。

 また、今回の参加メンバーが各地の干潟保全活動に取り組む人達が多く、お互いの絆が強くなり今後のネットワーク作りに役立つことができました。そして会議後の報告会などでもそれぞれが各地で報告したり、それぞれの立場で今回のツアーから得られたものをメディアに発表するなど、あちこちで参加メンバーの活躍が聞こえてきています。

 反省としては、_生き物の観察に夢中になるあまり、例えばその保護区で行われている環境保護対策や地元の人々の関わり・エコツーリズムのシステムや課題など学習の機会を作れなかったこと_現地NGOとの交流の機会を作れなかったこと_会議応援と言いながら資料運搬以外何もお手伝いできなかったことなどが挙げられます。

 今回は短い時間の発表で十分内容を伝えることはできませんでしたが、今後報告集などの編集やビデオ報告会なども考えています。もし実現できるようでしたら、またご案内いたしますのでその際にはよろしくお願い致します。

 以上で発表を終わります。どうもありがとうございました。


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