多数の「言い逃れ」「無回答」
再質問主意書に政府が答弁書
昨年12月12日に「諌早湾を考える議員の会」が提出した「再質問主意書」について内閣は1月20日、当初回答期限(12月20日)から大幅に遅れ「答弁書」を寄せた。 その内容についてお伝えする。
諌早を考える議員の会は、1997年5月に18項目にわたる「国営諌早湾干拓事業」に関する質問主意書を内閣に提出し、7月22日に内閣総理大臣答弁書として橋本龍太郎の名前で正式に回答された。この回答書を読んで本当にびっくりした。これが日本政府の公式解答であるとすれば、一体、日本の政府は何を考え、何をやろうとしているのか疑問に感じる。
私たちは、この答弁書に基づいて社会学者、自然科学者の協力を得て科学的な反論を行うと同時に、農水省をはじめ関係各省庁と話し合いを継続してきた。 そして昨年12月に改めて議員の会は質問主意書を提出しその答弁書を1月20日に受け取った。この質問主意書に対する答弁書も人を食ったものになっている。議員の会はわざわざ12月25日に農水省構造改善局の官僚と話し合いを持ち、趣意書の項目別に回答内容について説明したのだが、寄せられた答弁書は、質問の趣旨をはぐらかしたり、意味の分からない答弁を行っている。これでは官僚は共通一次試験の現代国語をパスしたのかと疑わざるを得ない。あえてこのような答弁をしているとするなら国民は官僚や政府を絶対信用しないだろう。その答弁のいくつかを紹介しよう。
三− 1.(要約)「自然の権利裁判」の証拠調手続で、干拓事務所長が、(1)排水効果について、潮受堤防は、普通程度の雨に対する自然排水「常時排水対策」を目的としたもので、平成9年5月や7月のような大雨に対する排水効果を予想しておらず、低地の湛水には効果がない、(2)洪水対策に関し潮受堤防の洪水対策の効果は、低地地域に限定されるものである、旨の証言をしている。これは、農水省(政府)の見解と理解してよいか。
(答弁)長崎地方裁判所における平成9年11月5日の干拓事業差止請求事件第6回口頭弁論での諌早湾干拓事務所長の陳述書は、「本事業では、標高7メートルの潮受堤防で諫早湾の一部を締め切ることにより(中略)常時の排水を可能とします。」となっており、尋問での証言も陳述書の内容に沿って発言されたものである。陳述書及び証言は、個人としての見解を申し述べるものであるが、農林水産省としても、当該陳述書と同様に考えている。
赤字部分をみれば一目瞭然。延々と「陳述書」の内容を連ねてくれたが、質問は形式的な「陳述」の後の「証言」について見解を求めたもの。さらに「証言も陳述書に沿って発言」などと勝手に言うが、食い違っているから質問しているのである。官僚たちの「日本語」がそこまでお粗末とは思えない。この「証言」は彼らにとって「バカ呼ばわり」されても認められないネックなのだ。
六−1.(要約)ラムサール事務局に対する日本政府の英文報告書の中で、(1)本件干拓事業によって失われる干潟は、諫早湾に重要な地域の内の3分の1に過ぎず、その他の地域には手をつけない、(2)潮受堤防の前面の有明海で捕獲されるムツゴロウの数は増えている、(3)有明海の佐賀県側の既存堤防の前面では、毎年40ヘクタールの干潟の成長がある、との報告がそれぞれなされている。これらの報告内容はすべて真実か。またこれらの報告の根拠となった資料をすべて、それぞれについて明かにされたい。
(答(1)について) 国営諫早湾干拓事業の事業計画において、潮受堤防内部の面積が3550ヘクタールであり、諫早湾全体の約3分の1に相当することを根拠として、諫早湾の相当部分が現状のまま残ることを報告したところである。
(答(2)について) 農林水産省の統計で、平成6年の6トンから、平成7年には13トン、平成8年には19トンと増加していることを根拠として、佐賀県におけるムツゴロウの漁獲量は近年増加していることを報告したところである。
(答(3)について) 農林水産省九州農政局北部九州土地改良調査管理事務所の調査結果を根拠として、佐賀県沿岸では一年当たり約40ヘクタールの干潟の成長がみられることを報告したところである。
「いい加減な回答」の典型例。(1)の質問では「諌早湾に重要な地域」と指摘しているにもかかわらず「『諌早湾全体の』と報告した」とごまかしている。(2)では、「潮受堤防の前面の有明海で…増えている」のかを問うているのに「佐賀の漁獲量が増加している」と回答。佐賀のムツゴロウ漁獲量のほとんどは諌早湾からという現実をあえて無視した不誠実な回答。(3)は「九州農政局なんたらの調査を根拠」などと回答しているが、いつ・どこでなど具体的記述のない、それこそ「根拠のない」回答。
渡り鳥について、前回の答弁書では諌早湾以外の干潟については調査していないと言いながら、今回は「有明海の主要な干潟において、鳥類及び鳥類の餌となる底生生物の調査を実施するとともに、干潟間の鳥類の移動に関する調査を実施しており、これらの実施調査結果から、シギ、チドリ等が諌早湾の残存海域は他の有明海の在来干潟に移動すると見込んでいるものである」と回答している。しかし、その詳細な調査結果は全く明らかにしていない。
工事開始後、諌早湾外の漁業被害が続出しているが、早急に現地でのヒアリングを含む調査を行う用意があるか、という質問に関しても「新聞報道があったことは承知している」と答えるのみである。
5月と7月の大雨時の被害についても、5月冠水した面積は約160ヘクタール、7月でも1210ヘクタールと私たちの調査面積の半分程度である。なぜ科学的な調査をやらなかったのか、また、平成2年から4基の排水機が増設され毎秒15トン排水機能が強化されていることには一言も触れていない。
堤防の地震に対する安全性の問題について「過去、地震により八郎潟干拓地の干拓堤防が被害を受けた事例は承知しているが、干拓地がことさらに地震に弱いという事実も承知していない」と回答する始末である。干拓地の地盤が地震に弱く、周辺地域が震度5の場合、干拓地では震度6になることは地震学上常識ではないだろうか。まして、長崎県や諫早市が予想している諌早湾周辺の震度は6である。
農業問題に関連して、この10年間で農地から宅地に転用された面積は「長崎県で約4160ヘクタール、関係市町である1市4町で約410ヘクタール」と回答し「耕作放棄は、高齢化などが進展する中で、中山間地の傾斜地など機械の利用が困難な農地等において発生しているものであり、これらは、自然的、社会的条件からみて、農業上の効率的な利用が見込めない土地に多く存在しているところである」と、トンチンカンな回答をしている。諌早地方で農地が宅地や工場に転用している農地は優良な農地と言われている諌早平野のど真ん中である。
質問主意書とその答弁書は、諌早干潟緊急救済本部が全文をまとめて印刷しているのでそれを参照されたい。閣議決定された公式の政府の見解がこの有り様だ。国民は一体だれを信じたらよいのだろうか。公共事業の本質を見る思いがする。
(救済本部 山下、前田)
*イサハヤ干潟通信第6号より転載*