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アゲマキ通信 第2号(2003年1月5日)
青木智弘(諫早干潟緊急救済東京事務所)


「砂いじり」より開門調査を

 環境問題に関わっていると、あんまりおめでたく無い感じのお正月ですが、本年も何とぞよろしくお願い申し上げます。諫早湾を締切っている潮受堤防が撤去される日まで、がんばりましょう。

 前回は漁場回復に関する技術開発に、ささやかな疑問を呈しました。諫早湾締切りによって「有明海異変」は、深刻化・顕在化し、漁場回復技術の開発なども盛んに行なわれるようになっています。
 廉価でスピーディに漁獲を回復しようとすれば、いわば「海の田んぼ」として、人工的に海底や干潟を堤で区切って、その中の環境を回復するのも良いのかもしれません。しかし、そんな方法ばかりに頼るのは疑問です。

有明海八代海特措法の問題

 有明海漁民・市民ネットワークなどの反対を押し切って昨年末、有明海八代海特措法が成立・施行されました。漁場回復事業として、覆砂、耕運といった「砂いじり」や、魚貝の種苗放流、流域河川上流への植林、流域の下水道整備などを盛んにしようと言う法律です。
 特措法は、これらの公共事業の振興によって、有明海八代海を救おうとするのです。その一方で諫早湾干拓事業や川辺川ダムの問題には、一言も触れていません。臭いものにはフタをするのでしょうか?
 有明海環境の悪化には様々な要因が絡んでいますし、海の場所によっても主因は違うでしょう。メカニズムの解明や定量化は困難です。しかし、諫早湾干拓事業が、環境に良い筈は無いのです。そのような事業を予防的に中止することこそが、「特別措置」の名に値するのではないでしょうか? 野党案は干拓事業の中止を法案に盛り込みましたが、民主党・共産党の賛成少数で否決されてしまいました。

あやしい「砂いじり」

 漁場の底に砂をしいたり(覆砂)、海底を耕すことが、どれだけ環境改善に役立ち、漁場資源の回復に役立つのか、じつは良くわかっていないのです。昨秋、第155回臨時国会の有明海八代海特措法案の審議(参考人質議)で、「一時的には良くなるが、すぐに元の木阿弥」といった研究者もいます。多くの漁民は「自然には手を触れないのが一番いい。海は放っておけば、元に戻る。やたらにいじるのは良くない」といいます。
 諫早湾干拓事業のような有害な工事をやめ、人為的に作った堤防、ダムなど、環境改善に邪魔なものを撤去すれば、放っておいても復元力によって生態系や漁場は再生するのではないでしょうか? やたらに砂をいじるのが得策とは思えないのです。

 まして覆砂は問題です。海底に敷く砂は、別の海から採ってきます。海砂採取の環境破壊は深刻で、広島県のように全面禁止する自治体が増えてきました(参考:環瀬戸内海会議 編『住民が見た瀬戸内海―海をわれらの手に』技術と人間・刊 など)。
 長崎県は海砂採取を認めている県の一つですが、壱岐の石田町では問題がおきています(参考:KTNニュース など)。
 ところが、あやしい「砂いじり」事業などばかりを推進し、肝腎の諫早湾干拓事業などには目をつぶろうと言うのが、有明海八代海特措法の本質です。「砂いじり」には、さまざまな利権が絡んでいて、関係者にとっては大変においしい商売であることも看過できません。

必要なのは開門調査

 諫早湾干拓事業に関しては、農林水産省が設置したノリ第三者委員会(有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会)が、2001年12月にまとめた見解で、事業による有明海全体への悪影響を指摘しています。さらに、干拓工事による堤防閉め切りが、貧酸素水塊の発生や夏の赤潮など諫早湾の環境悪化スパイラルの主因となり、タイラギやアサリなどの漁獲に甚大な影響を与えてきたことは、もはや明らかです。
 今、必要なのは「砂いじり」より中長期の開門調査ではないでしょうか?

 ところが農水省は、中長期開門調査の取り扱いを協議するため、学識経験者らによる新たな委員会を二月にも設置し、調査の必要性の有無まで論議しようとしています。ノリ第三者委員会が提言し、多くの学識経験者も実施の必要性を訴えている中長期開門調査について、まだ何を議論しようというのでしょうか? 議論している間にも、有明海の環境は悪化していきます。
 かつて水俣病では、原因を巡って学術論争が行なわれている間に、被害がどんどん拡大してしまいました。その愚を犯すべきではありません。有明海の環境問題でも、もはや議論の時間は無いと思います。
 

  • ※「アゲマキ通信」は、諫早干潟緊急救済本部・東京事務所ホームページのコンテンツですが、会員個人が執筆しているので、団体の公式見解とは若干、内容が異なる場合があります。あらかじめご容赦ください。

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