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アゲマキ通信 第1号(2002年12月10日) 佐賀大学有明海シンポジウム アゲマキ(Sinonovacula constricta)は、朝鮮半島、台湾、中国などの干潟で産する美味しい二枚貝です。漁期は5〜9月ごろで、中国では養殖も行なわれています。かつては三河湾や児島湾でも採れたそうですが、今はいません。1990年頃から有明海でも採れなくなったので、僕は日本産のアゲマキを食べたことがありません。 営業妨害をするつもりはないのですが、福岡空港前の焼鳥屋などで「有明産」と称して焼かれているアゲマキは、浙江省か福健省あたりで養殖された貝だと思われます。でも、おいしいです。機会があったら、ぜひ、食べてみてください。横浜の中華街などでは、中国産の水煮の缶詰も売っているそうです。 有明海で再び、アゲマキが採れるようになることを願って「アゲマキ通信」を創刊いたしました(なおアゲマキ通信は、諫早干潟緊急救済東京事務所ホームページのコンテンツですが、会員個人が執筆しているので、団体の公式見解とは若干、内容が異なる場合があります。あらかじめご容赦ください)。 有明海異変 1980年ごろから、有明海では、アゲマキ、アサリ、タイラギといった貝類が、だんだん採れなくなりました。ムツゴロウなどの漁獲も減少が続いています。 「有明海異変」と言った場合、単に、2000/01年のノリ大凶作や、諫早湾の締め切り後におきた潮流・潮汐の変化のみを指すこともあります。たしかに、有明海の異変が深刻化し、顕著になったのは、諫早湾の締め切り後です。しかし、僕は1970年ごろから徐々におきた有明海全域の環境問題の全貌を、「有明海異変」と考えるべきだと思うのです。 「有明海異変」は、2000/01年のノリ大凶作を契機に、全国の関心を呼ぶようになりました。 佐賀大でも干拓事業の問題を活発に討議 現在「有明海異変」に関する研究が、さかんに行なわれています。佐賀大学でも、さまざまな研究室やセンターが研究に取り組んでいます。2002年11月13日には「平成14年度 佐賀大学オープンキャンパス」として『佐賀大学有明海シンポジウム』が行なわれました。 経済学部の蔦川正義教授が「有明海・何が問題か」と題して、諫早湾干拓事業やノリの大凶作、有明海八代海特措法の問題を論じたのに始まり、低平地の防災問題、潮流潮汐の問題、生態系や漁場の問題など、7つの報告が行なわれました。 シンポジウムには、150人ほどの学生・研究者・漁民・市民が参加して熱気にあふれましたが、報告のあとに行なわれた討議では、諫早湾干拓事業の問題に議論が集中しました。 異変の主因は干拓事業 林重徳教授(低平地研究センター)は、有明海異変を「1970年ごろから徐々におきた有明海全域の環境問題の総体」と定義した上で、その要因として疑わしいものとして、
林教授は「(諫早湾締め切りの影響は)定量的には中長期開門調査をしないとわからないが、あえて推測するなら、潮流潮汐の変化への寄与度は20%程度か。有明海異変全体を考えると定量化は難しいが、しかし最大の要因と思われる」とコメント。「費用がかかるので、国民的合意が必要だが、有明海再生のためには潮受堤防の撤去も必要か」と語りました(※)。 筑後大堰については「利水が大規模すぎる。本来、有明海に流れ込むべき河川水を、結果として大量に博多湾に持っていってしまっており、博多湾は著しく淡水化した。しかし取水停止には、国民的合意が得られないのではないか」と指摘しました。
一方で林教授は「ノリ養殖の酸処理が、底質悪化につながっていることは、定性的には明らか。有機酸使用、船上処理、処理剤の陸上への回収といった適正処理で、ある程度は悪影響が低減できたと考えられるが、酸処理をしたノリ網が、海水や海底に与える影響には深刻なものがある。ただし、定量的には未解明。 実験室レベルでは、酸処理したノリ網が底質硫化に寄与するメカニズムも明らかになってきている。酸処理網が海水中、ひいては底質の微生群の構成を狂わせ、海底質の硫化を招いている可能性は高い。酸処理は現在のノリ養殖には必要不可欠なな技術だが、何らかの対策は必要だろう」とも語っています。 幸い、福岡女子大学の若松國光教授らが、酸処理にかわる代替処理法を開発中で、実用化が待望されます。 「海の田んぼ」へのささやかな疑問 さて、アゲマキですが、良好な底質が保たれている佐賀県東与賀町の干潟では回復傾向にあり、県が緊急の保護策を講じています。しかし、貝類の漁獲回復には漁場復元が必要と思われ、その技術を研究しているのが林教授らのグループです。 アゲマキやアサリ、タイラギの漁獲回復のためには「いわば海の田んぼ」として、人工的に海底や干潟を堤で区切って、その中の環境を回復するしか方法はないのでしょうか? 漁獲回復法としては、廉価でスピーディなのでしょうが‥‥。 有明海の貝は食べたい、しかし「そのためには人工的な漁場復元作業が不可欠」と言われてしまうと、複雑な心境になります。
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