国営諫早湾干拓事業に関する再質問主意書と回答
七 干潟の賢明な利用について
1. すでに佐賀県の干拓事業は熊本県羊角湾干拓に続いて中止の方向になったが、諫早でも防災効果(洪水、常時排水対策)を発揮しないこと、かえって、上流ダムと低地の排水ポンプの効果的な設置でこれらの防災対策は十分に可能なこと、また、高潮被害に対して、他の有明海沿岸で行われているのと同様の海岸堤防で比較的安価に対応できること、さらに、造成農地についても収支が合わず多くの入植者が望めないことが、それぞれ明らかな状況になった時に、政府として本件事業を中止するべきであるが、その事を明らかにされたい。土地改良法に基づく事業を中止することが法的に困難な理由はあるか。また、その中止した例は存在するか。中止した場合にどのような点が問題となるか、具体的に列記されたい。
(答) 国営諫早湾干拓事業は、潮受堤防、干拓地及び調整池を一体的に整備することにより、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、高潮、洪水、排水不良等に対する防災機能の強化を図るものである。
また、既に平成9年4月に潮受堤防を締め切り、調整池の水位を標高マイナス1メートルとなるように管理して防災機能を発揮させており、同年の大雨においても、背後地で一部の湛水が生じたものの、その程度や湛水時間は大きく改善されたと地元から高い評価を得ていること、このような中で、潮受堤防の一部の機能を代替させるために、新たに多くの費用と期間を要する長大な海岸堤防や多くの排水ポンプ場を建設することは現実的な対応とはいえないこと、本事業の営農計面は、長崎県の目標とする農業所得額を十分確保できるものであり、増反、入植を希望する農家が相当数あることが調査によって明らかになっていること等から、本事業を中止する状況にはない。
なお、土地改良法(昭和24年法律第195号)において国営土地改良事業を中止する場合の規定はないが、中止した例もある。
2. 排水門の操作を天候の変化を事前に予知しながら適切に行い、排水対策や高潮対策を講じながら、水質浄化のためにとりあえず潮を入れることを検討するべきではないか。
(答) 調整池の水を造成農地のかんがい用水及び雑用水の水源とし、また、造成農地の除塩を促進するとともに農作物への潮風害等を防止するためには、調整池を淡水化することが必要であること、並びに防災機能を適切に発揮させるためには、調整池の水位を標高マイナス1メートルとなるように管理することが必要であることから、一時的にせよ海水を調整池へ流入させることは想定していない。
なお、現在の気象予測技術では、九州北部等の広い地域に大雨が降る可能性について、24時間程度前から予測することは可能であるが、どれくらいの量であるかを精度良く予測することは困難で、また、雷雨等による局地的な大雨を予測することは数時間前でも困難な場合があることから、天候の変化を事前に予知しながら排水門の操作を適切に行うことは困難である。
3. 民間の研究で、潮を入れた場合でも、農水省が水門を開けない理由に挙げているガタの巻上やミオ筋への土砂の堆積を回避する方法があることが判明している。農水省として、この民間の研究方法に異論があれば、その根拠を示されたい。また、諫早干拓事業の継続によって、水質保全のために民間に余分な負担を強いたり、予算措置を講じたりするよりも、このような賢明な方法を民間と共同で検討するべきではないか。見解を求める。
(答) 調整池の水を造成農地のかんがい用水及び雑用水の水源とし、また、造成農地の除塩を促進するとともに農作物への潮風害等を防止するためには、調整池を淡水化することが必要であること、並びに防災機能を適切に発揮させるためには、調整池の水位を標高マイナス1メートルとなるように管理することが必要であることから、一時的にせよ海水を調整池へ流入させることは想定していないため、そのための方法を検討することは考えていない。
なお、ガタ土は主に潮流により諫早湾外から運ばれてきた浮泥が湾奥まで運ばれ、流速が遅くなった時に沈降して堆積するものであり、排水門を開けて海水を流入させた場合、湾奥部でのガタ土の堆積等は避けられないと考えている。
4. 当初予定の干拓地の面積を大幅に縮小して、いわゆる地先干拓として一定の干拓農地を確保するとともに、干潟も相当部分を残し、干拓地の農業用水も調整池からではなく別途これを確保して、潮受堤防を全面開放するというように現在の事業内容の変更をすることは、土地改良法の枠内で可能か。このように事業内容の変更を行うに
伴って生じる問題として考えられるものはどういう事柄か。
(答) 国営諫早湾干拓事業は、潮受堤防、干拓地及び調整池を一体的に整備することにより、かんがい用水が確保された優良農地の造成を行うとともに、高潮、洪水、排水不良等に対する防災機能の強化を図るものであり、長崎県や関係市町等地元の強い要望に沿って実施しているものである。
また、本事業地区の周辺の河川は水源として不安定である上、既耕地のかんがい用水等として利用されており、干拓地における新たな水需要をこれら河川に依存することはできない。
さらに、調整池の水を造成農地のかんがい用水及び雑用水の水源とし、また、造成農地の除塩を促進するとともに農作物への潮風害等を防止するためには、調整池を淡水化することが必要であること、並びに防災機能を適切に発揮させるためには、調整池の水位を標高マイナス1メートルとなるように管理することが必要であることから、潮受堤防を全面開放することは想定していない。
以上のこと等から、農林水産省としては引き続き本事業を計画どおり着実に推進すべきであると考えている。
なお、国営土地改良事業について、土地改良法第87条の3の規定に基づき、関係都道府県知事や関係市町村長との協議を経て計画の変更を行うことは制度上は可能であるが、御質問のような事業内容の変更に対して、長崎県知事や関係市町長の同意を得ることは困難であると考えている。