諫早湾の鳥類に関する農水省発表(10月29日)
に対するコメント
10月29日に農水省は「諫早湾およびその周辺の干潟における野鳥の渡来状況について」という題で記者発表を行った.これに対して,諫早干潟緊急救済本部ほかは,以下のコメントを出した.
- シギ・チドリ類は,渡来数の年変動の大きいグループであり,また,渡りの時期の調査では,記録数の日変化もかなり大きい.そのため渡来数の動向を明らかにするには,ひとつのシーズンに複数回の調査が必要であり,さらに数年にわたる長期間のデータが必要である.今回の農水省発表では,1993−1997年の秋期の総数のデータ(種別ではない)のみを示しているが,それ以前に行われた数年間の調査データを種別にすべて公開し,諫早湾を含む有明海全体の動向を解析すべきである.
- 諫早湾では,ダイシャクシギ,ホウロクシギ,チュウシャクシギ,ダイゼンなどの大型,中型のシギ・チドリ類の渡来数が,他の日本の干潟に比較してかなり多いのが特徴である.この特徴がどうなっているのか,今回の農水省発表からは読みとれない.これらの種の地域別のデータを示すべきである.なお,日本野鳥の会の10月5日の有明海沿岸調査で,ダイシャクシギとホウロクシギは諫早湾に集中していたと思われるデータを得ている.
- 諫早湾でシギ・チドリ類の記録数が半数以下に減少したことは,日本野鳥の会,WWF
Japan の調査でも明らかになっている.また,農水省発表では,筑後川区域,荒尾区域等で記録数が増加したとしている.しかし,このような状況は過去にもあったと思われる.そのため,今回の発表されたデータによって,農水省の「シギ・チドリ類は,他の干潟へ移動するので,干拓事業の影響は軽微である」という主張が通るわけではない.この点を誤解してはいけない.むしろ,影響は今後出てくると思われる.
- 9−10月には,諫早湾と筑後川河口地域の間を,シギ・チドリ類が相互に行き来していたと思われるという観察例があり,そうであるならば,鳥の群がどちらにいたかでそれぞれの地域の記録数は大きく異なってしまう.渡来数の安定する冬期に,継続して複数地点での同時観察が必要である.
- 短期的には,諫早湾に収容しきれなくなったシギ・チドリ類が他の干潟に移動することはあり得る.しかし,中長期的には,日本最大の生息地が失われた影響が出てくると考えられる.たとえて言えば,成田国際空港が突然閉鎖された場合,飛来する航空機は短期的にはローカル空港へ避難せざるを得ないが,中長期的には,新しい国際空港ができなければ,航空機の数を減少させる以外に方法はないのである.
- 各地に飛来するシギ・チドリ類は,10−20年の長期的視野で調査し,ロシアの繁殖地やオーストラリアの越冬地の状況も加えて,その動向を探る必要がある.また,諫早湾ではシギ・チドリ類以外でも,ズグロカモメ(絶滅危惧種,IUCN)やツクシガモ(危急種,環境庁)が冬期に多数渡来することも大きな特徴であり,これらがどうなるのか,越冬期間中に継続した分布調査を行い,また,それぞれの干潟がどう使われているのかについて,きちんと調査する必要がある.
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