日本干潟サミット報告
諫早湾干潟緊急救済本部は、7月29日に長崎市の平和会館にて日本干潟(ガタ)サミットを行なった。この集会は、日本湿地ネットワーク(JAWAN)、(財)WWF Japanとの共催、(財)日本自然保護協会、(財)日本野鳥の会、公共事業チェックを求めるNGOの会の後援、週刊金曜日の協賛で行なわれた。大型台風の接近が心配され、交通機関の乱れによる一部の講師の到着が遅れるなど影響があったが、会場には約300名の参加者があり盛況であった。
■諫早湾、そして全国各地の干潟の危機を報告
まず諫早干潟緊急救済本部代表の山下弘文氏が、諫早干潟の現状を報告した。諫早湾が締め切られて100日以上が経過し、多くの生物が死滅し、干上がった干潟でカキ、ハイガイの死骸が大量に見られると指摘した。しかし、当初の予想に反し、ムツゴロウなどは1メートル以上の深い穴を掘り、まだ生きているとも話した。そして、今は死滅してしまった貝類なども含め、干潟に海水を入れれば干潟はよみがえると報告した。また、国会議員と協力し、農水省などの省庁を相手に干拓事業の問題点の追求を始めていることも報告した。
最後に、緊急救済本部は水門が空くまで活動を続けることを宣言した。しかし、ここに来て活動資金が不足し、このままでは活動を続けることが困難になってきており、ぜひ今一度1円でも2円でもカンパを頂きたいと訴えた。
続いて東京湾市川市、船橋市にまたがる三番瀬、愛知県名古屋市の藤前干潟、徳島県徳島市の吉野川河口干潟、福岡県北九州市の曽根干潟、福岡市の和白干潟の現状が報告された。どの地域においても、港湾施設やゴミ処分場、河口堰、人工島などにより、干潟の状態が悪化したり、完全に消滅してしまう危機的状態にあることが報告された。また、沖縄からの報告では、今まであまり知られてこなかったが、本土復帰後干潟の埋め立てが急速に進み、今残された干潟も、すでに工事中の100ヘクタール以上の大規模な開発計画により消え去ろうとしていることが述べられた。
■イサハヤを考える国会議員の会、
政府に公式の質問状を提出
まず最初に、イサハヤを考える議員の会の代表の社民党の秋葉忠利議員より、議会の会の活動報告が行われた。現在会には96名の自民党を除く多くの党の議員が参加している。議員の会は、通常国会の閉会の直前の6月18日に、秋葉議員ほか4名の連名で諫早湾干拓事業の数々の問題点に対し、政府の回答や資料の開示の請求をする質問趣意書を提出している。この質問趣意書が、超党派議員の連名により出されたのは、昭和23年以来とのことである。
これに対し、政府の閣議決定を経た答弁書が届いたのは、7月22日のことである。秋葉議員によると、この答弁書には、多くの問題がある。それは、答えが不誠実であったり、質問に答えていない点である。例えば、排水門を開けて潮を入れることにより発生すると予想されるすべての障害を上げよというのが質問趣意書の問いであったのに、(農地の)除塩のため、自然排水を行うための2点しか回答に上げられていない。今までは、排水門の構造が海水を入れる構造になっていないなど、他にも色々水門を開けない理由をことあるごとに発表してきたにも関わらずだ。
続いて新進党の笹山登生(たつお)議員は、干拓先進国のオランダでは、デルタ地域の高潮と洪水を防ぎ、同時に干潟環境を保全するため、10年かかって議論を重ね、結局通常は開門したままの水門建設を決定したスヘルデの水門の例があると報告した。日本共産党の藤木洋子議員は、国会の場で政府質問を行い、問題追及してさたことを報告した。民主党の近藤昭一議員は、農水省は締切のおかげで冠水した面積は少なくなっていると発表しているが、それは原因や背景を無視した解釈であると指摘した。同じく民主党で議員の会の事務局長を務めている川内博史議員は、議員の会主催による勉強会を通じた印象として、農水省なと省庁はいろんな言い訳を考えてくると述べた。平成の悪代官を倒すまでやりましょうと締めくくった。
■干拓事業、長崎県の実質負担額は
最低でも今の4.6倍の1083億円
島根大学の保母武彦教授は、専門の財政学の立場から諫早湾干拓事業に関する問題を提起した。
現在干拓事業の事業費は、農水省によると国の負担が1964.5億円、県が237億円、受益者が168.5億円の総額2370億円となっている。しかし、この計算には、県と受益者の建設利息が含まれていない。利息を入れると、県の負担額は4.6倍の1082.8億円にはね上がる。また、現計画では干拓農地の分譲価格を10アールあたり110万円と設定しているが、前記の増額分を勘案すると、実際は347万2520円となる。現計画通り分譲すると、その差額は県の追加的補助金となり、総額354億円の追加的支出とならざるを得ない。最終的に長崎県の実質負担額は、最低でも今の4.6倍の1083億円に上ると試算されると述べた。
■サミットアピールを採択
最後に、神戸から来た木村貴之君がサミットアピールを読み上げ、会場の拍手をもって採択された。木村君は、神戸在住の高校生で、諫早湾が締め切られた後、一人で2万5千人の署名を集めて橋本総理大臣に提出している。
■長崎県知事に申し入れ
翌28日月曜日には、サミットで採択した長崎県知事宛の要望書を提出するため、長崎県庁を訪れた。
まず、WWF Japan自然保護室次長の花輪氏が、前日のサミットの報告と要望書が採択されるに至った経緯を説明し、諫早湾干拓室の水田室長に手渡した。水田室長は、県知事に伝えることを約束し、引き続き参加者による質疑へと移った。
■県干拓室は、事業を把握していない
その中のやりとりで明らかになったのは、事業推進の当事者である県のそれも干拓室が事業の現状を把握していないという驚くべき事実であった。
例えば、干拓室長は今の締め切った調整池は湖沼であると発言した。しかし、7月24日の国会議員の会による勉強会の場で、環境庁は法律上は調整池はまだ海域であると述べている。誰が湖沼への変更を行うのかという山下氏の追求に対し、事業者の農水省であると答えた。これもまた誤りである。正しくは、県知事が指定する。
また、7月9日から12日までに降った大雨による農地の浸水被害と締切堤防の効果をたずねたところ、シミュレーションをやっていないので分からないと述べた。これは、農水省が藤本農林水産大臣に今回の大雨で締切の効果が発揮された、と閣議報告までさせている事実と食い違う。
実は、長崎県は干拓事業の見直しに、大きな責任を負っている。同様の干拓事業が行われていた熊本県の羊角湾干拓事業では、熊本県が組織した検討委員会が干拓中止の中間報告を出している。それに対し農水省の高橋政行事務次官は「諫早湾の件もそうだが、農水省としては地元の考え方を大切にするという態度で臨みたいと思っている」とまで発言している。
長崎県、特に干拓室は、是非現在国会議員により指摘されている問題点の把握に努めるることが強く望まれる。
今回のサミットと県知事への申し入れは、大きな成果を上げたといえよう。300人以上県内外の関心の高い聴衆を集めることができたこと、干拓事業の本当の事業費が4.6倍と試算されるなど新たな問題点を指摘したことがあげられる。そして長崎県が事業をきちんと把握していない事実が分かったことなどがあげられる。
今後も、同様の活動を継続して行うことにより、水門の早期開放と事業の見直しに近づくことができる。そのためには、諫早湾干潟緊急救済本部・東京事務所のような核となる団体を、資金的な面も含め支えていくことが急務の課題である。
(報告作成 WWF Japan自然保護室 東梅貞義)