有明海漁民・市民ネットワークの
諫干縮小見直し案に対する抗議声明
有明海漁民・市民ネットワークは、農林水産省が長崎県などに2001年10月30日に提示
した諫早湾干拓事業の縮小見直し案に対し、11月9日付けで以下のような抗議声明を発表しました。
私たちは去る10月26日、農水省との話し合いの場において、有明海の疲弊した現状と漁民の生活の苦しさを訴えつつ、真摯かつ早急に有明海の再生と漁場の復元を実現するよう要望してきたところである。また同時に、年内に成案を得るために検討しているという見直し案については、被害を受けている当事者として、まずは現場の漁民との協議を前提とするようにも要求した。
しかるに、農水省が10月30日に長崎県などに提示したいわゆる縮小見直し案は、報道で知る限りにおいては単なる農地造成半減案でしかなく、干潟の再生や潮流・潮汐の回復という有明海再生に必須の抜本的対策が盛り込まれていないばかりでなく、そのための第一歩ともなるべき水門開放にすら一顧だにされていないものであった。このように漁民や漁業への配慮がいっさい行われていないことは甚だ遺憾であり、ここに強く抗議するものである。
そもそも国営諌早湾干拓事業と有明海異変の因果関係は、私たちの体験上から、また多くの研究者が明らかにしてきた数々の状況証拠から既に明白である。諫干工事の着工と共にまず湾内のタイラギがヘドロに覆われて採れなくなり、次いでそのヘドロは湾外でも目撃されるようになって湾内を中心に貝類の漁獲量が激減した。しかも工事が進行するに従って今度は魚類もますます採れなくなり、特に潮受け堤防の閉め切り以降は、湾内はもとより有明海でも潮流・潮汐が目に見えて変化・鈍化し、悪性赤潮や貧酸素水塊が頻発するなど、それまで私たちが経験したことがないような異変が相次いでいる。このように異変はまず諫早湾内で発生して有明海に広がっていったこと、湾内の環境悪化が最も顕著であることから、私たちは諫干こそが有明海異変の主因であると確信するのである。
農水省が工事を再開して事業を進めようとするならば、私たちが納得できるように諫干が諫早湾や有明海の異変とは無関係であることを証明してからにすべきである。有明海が健全ではないからこそ、昨期のノリの色落ち被害が発生したのであって、それは異常天候だけで説明しきれるわけはないし、たとえ今期のノリが無事に生育したとしても、問題の根底にある有明海異変が解決するわけでもないことは言うまでもない。
今やほとんどの漁民は、漁に出てもガソリン代にさえならない日々が続いている。既に私たちの仲間には漁業を諦めざるを得なくなった者が数多くいる。今まで同様に今後も、農水省や各種調査委員会が「因果関係は不明」などと無責任な態度をとり続けるならば、早晩有明海から漁民がいなくなるのは必定である。だから農水省や委員会に有明海再生・水産業振興の意思が少しでもあるならば、覆砂や貝の放流といった小手先の対症療法ではなく、干潟や潮汐回復などの根本的な対策に一刻も早く乗り出すべきである。
かつて私たち漁民は、当局による「諫早市民の生命・財産を守るためには干拓が必要」という恫喝とも言える懇願、及び「漁業経営は継続可能」という保証、の二つの説明を信用して泣く泣く事業に同意してきた経緯がある。しかし今や、そのいずれの説明も虚偽・間違いだったことが明らかになったのであるから、かくなる上は、事業を直ちに中止し、私たちの漁場を以前の豊かな宝の海に復元することが絶対に必要である。
このたび示された縮小見直し案は、私たちの期待を真っ向から裏切るものであった。もう、私たちの生活は一刻の猶予も許さない事態に陥っており、直訴のための旅費にも事欠く中で、今日も仲間からのカンパに助けられてやっとの思いで上京したのだ。そうした思いの私たち有明海漁民を見殺しにするかのごとき、この縮小見直し案は直ちに撤回し、改めて干潟の再生と潮流潮汐の回復を柱とする、漁場復元のための諫干見直し案を再提示されるよう強く求めるものである。
2001年11月9日
有明海漁民・市民ネットワーク
代表世話人 森 文義
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