諫早湾干拓事業の見直しと
諫早湾干潟の再生を求める緊急要請

諫早干潟緊急救済本部、世界自然保護基金ジャパンなど5団体は、2001年1月26日に下記の「諫早湾干拓事業の見直しと諫早湾干潟の再生を求める緊急要請」を農水大臣と環境大臣に対して提出しました。


2001年1月26日

農林水産大臣  谷津 義男 殿
環境大臣    川口 順子 殿

諫早湾干拓事業の見直しと諫早湾干潟の再生を求める緊急要請


                    諫早干潟緊急救済本部
                     代表 山下 八千代

                    諫早干潟緊急救済東京事務所
                     代表 矢嶋 悟

                    日本湿地ネットワーク
                     代表 辻 淳夫

                    財団法人日本野鳥の会
                     会長 黒田 長久

                     財団法人世界自然保護基金ジャパン
                     会長 大内 照之


 諌早湾干拓事業の工事着工から約11年、潮受堤防の閉め切りから3年9ヶ月を経過した現在、諫早湾及び有明海の現状は、閉め切り後の赤潮発生件数の急増、特産品であったタイラギの長期的かつ壊滅的な不漁、アサリ養殖の不振、ワカメの不作など環境の悪化と漁業被害が続いています。これに加えて昨年12月より、養殖ノリの「色落ち」が深刻化し、福岡県・佐賀県・熊本県のノリ漁業者が死活問題に直面しています。この結果、全国生産量の約4割を占め広く国民に親しまれてきた「有明海苔」の品質低下・供給不足が国民生活にも影響を及ぼして始めています。

 農水省は、諫早湾干拓事業の環境アセスメントの総合評価で、「有明海の自然環境に著しい影響をおよぼすものではなく、また、その影響は計画地の近傍に限られることから、本事業が諫早湾及びその周辺海域におよぼす影響は許容しうるものであると考えられる。」とし、有明海の生態系への影響は軽微であるとしていました。しかし、周辺漁民や多くの科学者、NGOなどは、周辺環境に重大な悪影響を及ぼす危険性を指摘してきました。

 一方、佐賀、福岡、熊本の3県の有明海漁連も漁業への影響を考慮し、事業着手前に九州農政局長との間で「諫早湾干拓事業に関する基本協定書」(1985年)と「諫早湾干拓事業に関する確認書」(1987年)を取り交わしています。その確認書の中では「乙(九州農政局長)は、有明海水産業への影響並びに環境の変化を把握するため、定期的に調査を実施するものとする。」「諫早湾干拓事業に起因し有明海水産業に予測し得なかった新たな被害又は支障が万一生じた場合には、乙は誠意をもって甲に協議し、解決するよう努めるものとする。」と環境調査と協議が確約されており、実際に3県漁連からは、これまでも有明海の環境調査の要請が行われてきました。
 現在の深刻な漁業被害に対しては、緊急の補償措置等を行うことも不可欠と思われます。

 私たちは、有明海・諫早湾の環境悪化・漁業被害に諫早湾干拓事業が重大な影響を与えていると考えます。この状況の解決、つまり、有明海・諫早湾の豊かな生態系を守り、回復させるためには、諫早湾干拓事業の根本的な見直しと諫早湾干潟の再生が緊急の課題だと考えます。
 有明海沿岸漁民が「諫早干拓を中止し、水門を開放せよ。宝の海をかえせ。」と大規模な海上デモを元旦から繰り返していますが、この要求は私たちの主張と一致するものです。

 このような情勢の中、農林水産省が、「有明海ノリ不作対策本部」を設置し、状況調査に乗り出したこと、さらに農林水産大臣自らが、「あらゆる観点から原因を調査する。予見を持たずにやり、結果によっては潮受堤防の水門を開けて調査するのもやぶさかでない。」と言う趣旨の発言をされたことを、私たちは大きな期待を持って受け止めました。
 私たちは、農林水産省に誠実な調査と大胆な決断を期待し、また、環境省に有明海全体の環境保全の推進を求める立場から、以下の点について要請します。

  1. ノリ等の漁業被害のみならず、有明海の環境の悪化ついて、国として科学的な調査を行うこと。また、その方法や結果について十分な情報公開を行うこと。

  2. 水質浄化を図るため、諫早湾の調整池を再び汽水化し、干潟を回復させるための水門操作を直ちに行うこと。ただし、水門操作の方法等、諫早湾内の漁業への影響に十分配慮すること。

  3. 調整池の水質悪化の要因の一つである内部堤防工事を直ちに中止すること。

  4. 潮受堤防の水門を開放するにあたり、必要な防災対策の検討を早急に行うこと。

  5. 水門の常時開放・水門の拡幅・潮受堤防の撤去を含めて諫早湾の干潟を効果的に回復させる措置の検討を開始すること。ただし、その措置が与える一時的な影響について予測し、必要な漁業補償等も行うこと。

以 上