諫早湾自然の権利訴訟の現地検証
長崎地裁裁判官が被告(国)、原告団とともに諫早湾を検証


 ムツゴロウなど諫早湾の生物などを原告とした裁判として知られている、諫早湾自然の権利訴訟の現地検証が、10月27日(水)に行われます。当日は長崎地裁の裁判官が初めて現地・諫早湾を訪れ、被告である国側の担当者や、ムツゴロウの代弁人である原田敬一郎さんら原告団とともに、潮受け堤防や干拓工事現場などを訪れます。

 以下に、原告団が裁判所に提出した「検証指示説明書」から、検証場所、内容などをご紹介します。

(1) いこいの村

  1.  本地点南東部に諫早湾の全景が確認できる。潮受堤防の内側の調整池はドブ池特有の死んだ水の色をし、海側の水の色と全く異なることを一望できる。農水省の息がかかった協議会が設置した説明板が正反対の色分けをしていることに注目されたい。かつて諫早湾内側には広大な干潟が存在し、ムツゴロウを始めとした多くの野生生物が生息していた。また、渡り鳥の重要な中継地となっており多くの野鳥が観察された。
  2.  諫早湾を分断するようにして建設が進められた潮受堤防の規模の大きさが分かる。
     潮受堤防は諫早大水害級の洪水、伊勢湾台風級の高潮が同時にこの地域を襲った場合にも対応できるよう建設されると言う。しかしながら、諫早大水害時、多数の死傷者が出ているが、死傷者の発生した地域は市街地及び山間部が中心で諫早湾周辺部では死傷者がほとんど出ていない。
     本件施設による洪水防止機能はない。諫早湾周辺部の農地に対する海水の浸水防止機能が限定的にあるのみなので本件施設により諫早大水害並の水害に対する救命率が上がる訳ではない。
  3.  潮受堤防の北東部側が有明海など外海と連なる部分であり、南西部側が調整池である。調整池の南西部では現在内堤防工事工事が進められている。調整池の水は本件事業により開発される耕作地の水源となることが予定されている。
     調整池には本名川、有明川などから水が流れ込むのであるが、下水処理施設の処理能力が技術的には実験的域を超えていないことと、諫早干潟が消失した結果、調整池の水質浄化機能を喪失してしまったため、調整池内の水質汚染が進んでいる。この地点からの眺めからも分かるように、調整池の水と諫早湾側の海水とは水の色が著しく異なる。 


(1)の2

 いこいの里から諫早湾にいたる途中の道路上である。
 本地点南西部に小江干拓地を見ることができる。小江干拓地先は本名川河口付近となり本明川から大量の土砂が流入する。既にこの付近には土砂が堆積しており、水深が著しく浅くなっている。


(2) 管理センター

 排水門によって調整池の水位がコントロールされている。常時は排水門を空けて調整地内の自然生態系を可能な限り保全し、高潮などを予見して災害対策のために調整池内の水位を維持すべきである。
 災害対策と言うことであれば、四八時間、七二時間後の潮位変動と気象予想(気象衛星などの観測システムが充実している原状からすれば気象予想は可能である)の組み合わせにより、必要に応じて排水門を開閉することは可能である。


(3) 北部排水門

 諫早干拓事業の見直しを求める本件訴訟では排水門を常時開けることにより、潮受け堤防内の自然生態系を可能な限り維持し、かつ、腐食してしまわないうちに内水を有明海に流し、有明海の自然生態系を可能な限り維持しておくことは取り返しのつかない結果をできるだけ回避すると言う意味で重要である。
 排水門を常時は空けておくことについては、被告は樋門を通過する海水による排水門護床の損傷が問題となりできないとしている。しかしながら、本件排水樋門外海側は堅固な構造となっており調整池から外海側に水が排出される分には問題はない。海水の流入については、護床の強化により保護を図ることは可能である。


(4) 潮受堤防

  1.  生息地の変化
     諫早干潟はムツゴロウ、シオマネキ、ハイガイなどの底地性生物の豊富さでは我が国有数の自然度の高い干潟であった。この地点付近では漁民らがカスミ網などの諫早干潟独特の漁などが行われている様子がみることができたはずである。多くの渡り鳥の飛来地でもあり、この地点に立てば本来は多数の鳥が観察されるはずである。現在はその様子を想像することもできない。
  2.  支持地盤など
     全長七〇五〇メートルの潮受堤防の中間地点である。原告らは地盤の不安定さゆえに不等沈下、沈没などが起こりこの堤防が損壊する危険性を指摘している。堤防が決壊した場合には外海の水が内部に侵入し、本件開発区域及び周辺部に大きな被害をもたらす。
     本件潮受堤防は有明粘土層と呼ばれる軟弱地盤に建設されるために、その安全性が問題となっている。被告は支持地盤を二〇メートル以深の砂礫層までとすることとサンドドレーン工法とサンドコンパクションパイル工法の組み合わせによる地盤改良によって潮受堤防の崩壊、損傷などを防止できるよう建設されているとしている。
     しかしながら、有明粘土層といわれる軟弱地盤について地盤自体の砂礫層自体についても水深三〇メートル についても液状化現象が報告されている例からもわかるように安全性が保障されているわけではない。
  3.  この場所から調整池を眺めることができる。当初の説明では締め切り後に淡水化し、干拓農地に農業用水を供給する計画であった。しかし、淡水化は現時点でも実現していない。
     いこいの里からの眺めからもわかるが、外側と内側とでは水の色が異なる。この調整池には本明川及び有明川などから河川水が流れ込んでくるのであるが、下水処理能力に限界があるため干潟などの汽水域で浄化されるほかはない。しかし、干潟が消滅して干潟を中心にした生物層の喪失は干潟の浄化能力を奪った。そのために、本件調整池の水質は潮受締め切り以来悪化の一途をたどっている。


(5) 潮止め区間

 この地点南四〇〇メートルほどの地点で平成九年一〇月二日頃に大規模な約一〇〇メートルにわたって潮受堤防の沈下が起こった。その際に干拓事務所は陥没部分に石を積み上げ、外観上陥没が修復されたように装う一方でサンドコンパクションパイル等の地盤改良工事を追加して実施した。


(6) 南部排水門

  1.  北部排水門と同じ。
  2.  この場所から吾妻町方向を眺めると外海側海岸がある。この海岸は諫早干潟とは質が異なり、泥質のものではない。内側方向にはほんのわずかであるが泥質干潟が一部残り、ムツゴロウなどの諫早干潟に生息していた生物が生き残っている。この付近にはかつて諫早湾干拓事務所によりヒチメンソウが移植されていたが、現在ではない。


(7)、(8) 有明川河口集合場所付近

 ここより有明海に向かって干拓地が広がる。この地点からは中阿母新田、野井沖新田を見ることができる。この地域は潮受堤防より逆に自然排水を妨げられ、土砂の堆積も増悪した。
 雨水により調整池内の水位が上がりこの地点の干拓地は自然排水が困難になる事態が生じた。潮受堤防建設以前は干潮時に排水可能であったものが(干潮時は最大マイナス二・五メートルであった。)干潮時間帯を経過しても水位の減少が起こらないために自然排水が困難となったのである。最近では平成一一年七月から八月にかけてこのような事態が生じていた。このほかにも、この地域には雨が降らなくとも、有明川上流部に雨があった場合にはやはり調整池の水位が上がり、やはり自然排水が困難な事態となった。
 従来干潮時に海に排出されていた土砂が、干潮が無くなったことに加えて、潮受堤防により流れが堰き止められたために千鳥川には大量に土砂が堆積するようになった。この地点から堆積した土砂を浚渫し、河道を広げた様子をみることができる。この現象は調整池に注ぐ他の河川でもみることができる。


(9) 大島

 大島から森山干拓地をみることができる。
 森山干拓地は最も低い干拓地である。この地域では排水不良であり、潮受堤防により排水が悪化した。
 本件干拓地には耕作放棄地多数ある。


(10) JA諫早カントリーエレベータ

 干拓地に設けられた施設である。軟弱地盤に起因する不等沈下の状況は明らかである。


(11) 万灯樋門

 二反田川河口である。  
  既存堤防の損壊箇所が至るところにあり、既存堤防が管理されないまま放置された状況がある。二反田川はしばしば溢水被害が生じたのであるが、貧弱な樋門のまま放置された。これらは潮受堤防ができれば必要なくなると言うことで過去、補修が放置されてきたのである。


(12) 盛土試験

(13) 南部一工区工事

(14) 小野島海岸

  1.  この地点から諫早湾にむかってかつては広大な干潟が広がっていた。多くの底地性生物が生息し、ムツゴロウ、ハゼ類、シオマネキ、アリアケガニなどのカニ類が高密度で生息し、干潮時には地面が動くと見まがうほどに干潟をにぎわせていた。それらの生物を求めて鳥たちも飛来してきた。この地は野鳥観察のメッカであり多くの研究者、観察家が訪れていた。
     締切後、この地点は干上がり、カニ類などの多くの底地性生物の死骸が散乱した。現在では雑草で覆われている。
  2.  小野島海岸から見える干拓地が既存堤防外側に比較して明らかに低いことが分かる。
     潮受堤防建設後であるにもかかわらず小野島干拓地は排水不良状態を解消するために、クリークが大規模に整備された。クリークは排水路であると共に調整池の機能も果たすためにもうけられたものである。また、この干拓地では新たに排水ポンプが建設されようとしている。本来、本件調整池が建設されることにより排水不良は改善されるはずであったが、結局は改善をみず、新たな排水対策が必要となったのである。


(15) 白浜海岸

  1.  本明川河口付近である。本明川からくる土砂が堆積し浅くなっている。さらに下流方向には三角州があり河口を塞ぐように発達しつつある。
  2.  この地点でも既存堤防をみることができるが、この地点の堤防は約一〇〇メートルにわたって一夜のうちに陥没し、堤防上部まで干潟に埋没した。
  3.  この海岸には漁師らの船着き場があり、多数の小舟がもやっていた(小舟が連なって停泊している様子のこと)。この海岸には本明川の川筋があり、対岸部には広大な干潟が広がり、やはり多数の生物が生息していた。締切直後の干上がった干潟にはおびただしい数のハイガイ、カキの死骸で埋め尽くされた。現在ではそれらの様子も草で覆われた。
  4.  この地点では多くの黄色の布が掲げられている。これらは干潟の再生を願って全国から寄せられたものである。潮受け以降毎年四月一四日ころには「干潟の日」の行事が行われているが、この地点に建てられている木の柱は諫早干潟の生物たちの追悼碑である。


(16) 小江干拓試験ほ場

 ここは実験ほ場があるが、盛土が行われ地盤が高くされているため排水が良好である。その結果、冠水に著しく弱い野菜栽培であっても、それが可能となっている。この点、中央干拓地と異なる。


*地図内の丸付き数字は上記文章見出しのカッコ付き数字に対応しています。


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