諫早湾干拓事業の今後の進め方について
一 農林水産省においては、平成十二年度の有明海のノリ不作を契機として、有明海の環境変化の原因について関係各省と連携して調査を行うとともに、漁場改善対策を講ずるなど、有明海の再生に向けて積極的に取り組んでおります。
二 今期のノリ作は、幸いにして気象条件に恵まれ、関係者の努力もあって、順調な作柄となっていますが、有明海の環境が多年にわたる諸要因により悪化していることに鑑み、その改善を図り、将来にわたり有明海で安定した漁業を営めるようにすることが、農林水産省の責務であると考えております。
三 有明海の環境変化への影響が指摘されている要因の一つである、諫早湾干拓事業に関しては、「有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」の議論を踏まえ、一年間の現状のままでの有明海の調査を行ってきております。昨年十二月十九目には、同委員会から、有明海の環境変化の原因に関する情報を得る一環としての開門調査の進め方について、考え方が示されたところであります。
四 この間、諫早湾干拓事業については、昨年八月の「事業再評価第三者委員会」の意見等を踏まえ、
・防災機能の十全な発揮
・概成しつつある土地の早期の利用
・環境への一層の配慮
・予定された事業期間の厳守
の四つの視点に立った総合的な検討を行い、干拓面積を約二分の一に縮小するとともに、一層の環境配慮対策を実施すること等を内容とする事業計画の見直し案について、昨年十二月に長崎県から了解を得たところであります。農林水産省としては、この見直し案に沿って、今年度中に計画変更を行い、平成十八年度の完成を厳守すべく事業を着実に進めていく所存であります。
五 また、長崎県、長崎県議会、諫早湾周辺市町等の地元関係者からは、事業の見直し、案の了解に際し、背後地の防災機能や周辺の農地と漁場環境への影響等について予測し難い点が多いため、地元に多くの不安があり、開門調査は容認できないとの考え方が示されたところであります。
六 農林水産省としては、有明海の再生に向けて、その環境変化の原因を早期に究明し、有明海全体としての環境改善の方策を講ずるための総合的な調査の一環として、諫早湾干拓事業が有明海の環境に及ぼしているとされる影響の度合の解明に向け、「開門総合調査」を行うことが必要であると考えております。
七 その際、長崎県や関係市町等の方々の不安や懸念に対応すべく、開門調査についての事前の影響予測を行い、排水門を開けることにより被害が生ずることがないよう、また、そのことを地域の方々が実感し得るよう、予想される影響への対応等を適切に行うことが極めて重要であると考えております。
八 この「開門総合調査」は、有明海の環境改善のための総合的な取組みの一環として実施するものであり、
・調査を行った場合の影響予測に対して、被害を防止するための有効な対策を講ずることができること
・原因の究明及び対策の検討のため、早期に成果を得るという観点から、適切な調査手法であること
・有明海の環境に影響を及ぼしているとされる様々な要因の調査と総合的な連携が保てること
の三つの観点に立って、行うことが重要であると考えております。
九 具体的には、
・万全な対策を期して春に行う短期の開門調査
・諫早干潟に類似した現存干潟における実証調査
・これらの情報も活用したコンピュータによる解析調査
の三つの手法を総合的に組み合わせ、諫早湾干拓事業による有明海の環境への影響をできる限り量的に推定したいと考えております。
十 開門総合調査から得られるデータや情報は、広く公表するとともに、その成果は、有明海における他の各種調査の結果と併せて、有明海の環境改善の方策を総合的に検討する場に供して参りたいと考えております。
十一 農林水産省としては、現在検討されている「有明海等再生特別措置法案(仮称)」の動きも踏まえつつ、関係各省との連携のもと、国民共有の財産である「豊かな有明海」の再生を期するとともに、諫早湾干拓事業を見直しの方向に沿って着実に進め、農と緑と水辺空間の創出に向け、一層の努力を重ねて参る所存であります。
関係各位の御理解をお願いするものであります。
平成十四年三月七日
農林水産大臣
武部 勤
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