長崎県「県政だより」に関する公開質問状
諫早干潟緊急救済本部、諫早干潟緊急救済東京事務所、有明海漁民・市民ネットワークの3団体は、2002年1月28日、長崎県が、公費で作成・配布した「県政だより(2002年2月1日付 vol.16)における、諫早湾干拓事業の記述に関し、長崎県知事宛の公開質問状(下記)を提出しました。
諫早湾干拓事業の防災効果についての「県政だより」の記述は、これまでの農水省や、長崎県自信の説明と明らかに矛盾するものです。そもそも、諫早湾干拓事業の防災効果については、多くの問題点があり、今後の工事は、現状に比べ、後背地の防災上、むしろ有害なものです。
長崎県が、今後の工事を「洪水や常時排水への対策」と説明することは、事業の効果を課題に宣伝し、地域住民をはじめとする関係者に重大な誤解を招くものであると私たちは考えます。
私たちは、長崎県知事に対し、「県政だより」の記述の誤りを指摘するとともに、私たちの公開質問へ真摯に答え、「県政だより」の誤りを認め、それを広く一般に告知することを求めるものです。
長崎県知事に対する回答期限は、2002年2月1日としました。
諫早干潟緊急救済本部 代表 山下八千代
諫早干潟緊急救済東京事務所 代表 陣内 隆之
有明海漁民・市民ネットワーク 代表 森 文義
長崎県は、県政だより(2002年2月1日付 vol.16)において、諫早湾干拓事業の見直し案に関連し、「今後は、洪水や常時排水への対策を実施します。」と述べているが、これは、これまでの農水省や、長崎県自身の説明とも矛盾するものである。
そもそも諫早湾干拓事業の防災効果については、多くの問題点があり、今後の工事は、現状に比べ背後地の防災上、有害なものであると、私たちは考える。
長崎県が、今後の工事を「洪水や常時排水への対策」と説明することは、事業の効果を過大に宣伝し、地域住民をはじめとする関係者に重大な誤解を招くものである。
私たちは、下記1.に、県政だよりの記述の誤りを指摘し、下記2.に長崎県知事に対する公開質問をまとめた。
私たちは、長崎県知事に対して、私たちの質問へ真摯に答え、県政だよりの誤りを認め、それを広く一般に告知することを求める。
1.県政だよりの誤り
- 県政だよりでは、事業の見直し案に関連し、次のように述べている。
- 「潮受堤防の設置により、高潮対策は完了したので、今後は、洪水や常時排水への対策を実施します。」
-
- これは、あたかも、これまで「洪水や常時排水への対策」が行われておらず、今後の工事が「洪水や常時排水への対策」であるかのような誤解を招くものである。
- 諫早湾干拓事務所発行の「いさかん 1994年秋号」には
- 「潮受堤防の完成の後には、潮受堤防とその内側にできる調整池の水位管理により、諫早大水害程度の豪雨や伊勢湾台風規模の高潮、波浪による災害を防止するほか、潟土の堆積による河川や背後地の排水不良を解消するなど、諫早湾周辺地域に安全で快適な生活が実現されます。」
- との記載があり、潮受堤防と調整池の水位管理によって豪雨や高潮などによる「災害を防止する」ほか「背後地の排水不良を解消する」と明記されている。
また、潮受堤防完成直後の「いさかん 1999年夏号」では、
「潮受堤防は、(中略)、諫早湾周辺地域を高潮・洪水災害から守り、常時排水不良を改善する防災効果を発揮するもので、潮受堤防の完成により、これら防災機能が本格的に発揮されています。」
として、この時点で、すでに事業の目指す防災機能は、本格的に発揮されていることを認めている。
にもかかわらず、今後の工事を「洪水や常時排水への対策」と称するのは、今後の工事の必要性を主張するために、防災を強調しているか、さもなければ、潮受堤防完成による「防災効果」が、十分に発揮されなかったとしか考えられない。
- 理解しがたいことだが、この県政だよりの中でも、「排水門はなぜ開放できないのですか?」という項目では、長崎県自らが、
- 「潮受堤防の完成によって、やっと洪水等の災害から開放された地元に、再びご苦労をおかけすることになりかねません。」
と述べている。「今後、洪水対策が行われる」のか、地元は既に「洪水から開放された」のか。長崎県の主張は、自己矛盾も甚だしく支離滅裂である。
- 問題は、潮受堤防の完成によって、背後地の排水不良が「解消される」と宣伝されてきたにも関わらず、現在に及んでも、集中豪雨の際に、低平地の湛水被害がたびたび発生していることである。
- 諫早湾干拓事業が「洪水対策」だとされていることには根本的な疑問がある。そもそも洪水は、河川の氾濫により起こるものであり、河川管理者が防災の責任を負うものである。
諫早湾干拓事業については、常に、諫早大水害の惨禍が引き合いに出されるが、本明川の洪水対策は、国土交通省が「本明川水系河川整備基本方針」に基づいて実施している。この基本方針において、諫早湾干拓事業の効果を折り込んでいるのは、高潮についてだけであり、洪水に関しては、諫早湾干拓事業の効果は考慮されていない。
- 農水省は、調整池の水位を常時−1mに管理することが、本明川の洪水対策として有効であるかのように説明しているが、本明川河口部の水位が、洪水時の河川水位に影響を及ぼすのは、河口に近いところに限られ、諫早市街地中心部までは影響が及ばないことが明らかになっている。これについては、昨年3月の長崎県議会で、県農林部の諫早湾干拓担当参事官が
- 「(市街地)中心部に対する被害とかへの(防災)効果は認めません。それは事実です。中心街の洪水対策の効果としては見ておりません。」
と証言し、認めていることでもある。
- さらに、内部堤防が完成していない現状では、洪水時には西工区分までが調整池として機能していることが重要である。つまり、内部堤防を建設すれば、この機能が失われ、調整池の洪水氾濫防止のための容量が減少するため、洪水時の調整池水位の上昇は、現状より速くなる。
これはすなわち、背後地の防災にとっては、内部堤防の建設が有害であることに他ならない。
- この様に、諫早湾干拓事業の防災効果については、数々の疑問があり、しかも、背後地での防災について、農水省がかねて宣伝してきた防災効果が発揮されていない。この様な状況で、さらに防災機能を低下させるような農地造成・内部堤防の建設などを、「洪水や常時排水への対策」と説明することは、全くの誤りである。
2.長崎県への質問事項
- 潮受堤防が完成し、調整池の水位が常時マイナス1mに管理されている現状で、諫早湾干拓事業の洪水及び常時排水に対する防災機能は、発揮されていないのか。発揮されていないとすれば、どの地域で、どの程度か、具体的に示されたい。
- 今後の工事による、「洪水や常時排水への対策」とは、どの地域で、どの程度の効果を見込んでいるのか。具体的に示されたい。
- 諫早湾干拓事業により、調整池の水位を常時マイナス1mに管理することによる洪水に対する効果は、河口部から何kmまで及ぶか。
この問題について、これまで事業者側は、「堤防締め切り前は、河口から約5kmの公園堰付近まで潮が上っていた」という筋違いの回答を繰り返してきた。これは、問題のすり替えに過ぎない。
私たちが質問をしているのは、本明川の感潮域の範囲ではない。洪水時に河川水位を低下させる効果が、河口から何kmまで及ぶのかを、具体的に示されたい。
- 内部堤防が完成していない現状において、事業計画の想定を超える大規模な洪水が起こった場合、西工区部分が調整池の氾濫を防ぐために機能することを認めるか。
- 内部堤防が完成していない現状と、内部堤防完成後を比較した場合、洪水時の調整池の水位上昇は、どちらの場合が速いか。その差はどの程度か。また、この様な検証をしているか。それを一般に公開しているか。
- 諫早大水害級の豪雨と伊勢湾台風級の高潮が同時に襲来したと想定したときの調整池の最大水位を示されたい。また諫早大水害級の豪雨と大潮満潮が重なったときの調整池の最大水位はどうか。
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