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≪研究者共同声明≫

添付資料:
第7回中・長期開門調査検討会議専門委員会がまとめた
「期待される成果」の検討

1) 潮汐・潮流

(1) シミュレーションによって潮受け堤防がある場合とない場合の比較を行ったが、このシミュレーションの妥当性が示されなければ、この比較が妥当かどうか不明である。12月2日の熊本日日新聞で、東京工業大学の灘岡教授は、「シミュレーションは未熟な技術で、どういう条件で行ったらどういう結果が出たと述べるべき」と話している。灘岡教授は「昨年、諫早湾閉め切りが有明海の潮汐(ちょうせき)振幅減少に与えた影響をシミュレーション解析。計算領域の取り方で結果に最大20%以上の違いが出た」と話して、シミュレーション結果の取り扱いを慎重に行わなければならないことを強調した。専門委員会は、検証データを示したり、第三者の意見を求めるなどして、このシミュレーションの妥当性を明らかにしなければならない。

(2) 報告書では、「潮受け堤防建設前と地形条件が異なるので、開門調査を行って得られたデータは、潮受け堤防の有明海環境への影響を示すものとならない」と述べている。これは、「開門調査の意味がない」ということと同義語である。そうであろうか。たしかに地形条件が異なるので、堤防建設前の環境を再現はできないが、現在の締め切りの状況とは異なる条件が作られて、その結果環境が改善されたならば、少なくもと現在の締め切った条件は環境に悪影響を与えていることが明らかとなる。そういう意味で、開門調査の意味がない、ということにはならない。

(3) 報告書では、「実際の海域における流動場は・・・時々刻々変化するため、開門による海域へのインパクトは・・・難しく、数値解析が優れている」と述べている。数値解析の問題点は、(1)で述べたとおりである。この見解では、現場観測では何もわからない、従って開門調査も意味がないと断定していることになる。では何故研究者は現場調査をするのであろうか。数値解析はモデルを作るが、そのモデルが妥当かどうかは現場観測データにより検証されなければならない。現場観測なしに自然のからくりを明らかにしようとすることこそ、自然を真正面からとらえようとしない、間違った考えである。

2) 水質・干潟

(1) 報告書は、「佐賀沖の泥質干潟における調査などと諫早湾に係わる公共用水域観測データを用いて検討した結果、潮受け堤防の有無、あるいは諫早干潟の有無によって諫早湾外の有明海の水質には有意な差が見られない」と述べている。しかし、時期も同じ1988年頃の公共用水域観測データを用いて、佐々木ら(2003)(海の研究、12巻、573-591)は、諫早湾干潟の浄化力を推定して、浄化力の喪失によって調整池の水質が悪化したことを報告している。少なくとも、浄化機能に触れるならば、佐々木らの報告との比較検討を行い、報告書の妥当性について述べなければ、一方的という誹りを受けざるを得ない。

(2) 報告書は、「・・・環境モニタリング等の観測データからも、潮受け堤防の締め切り前後でこれに起因すると考えられるような水質の変化は確認されていない」と述べている。しかし、実際には、諫早湾の水質は締め切りによってSS濃度が減少する以外変化は確かに認められないが、底質は大まかにCODがおよそ15mg/gから20mg/gへと明らかに増加している。さらに詳細に解析すれば、調整池の底質が諫早湾内に輸送され、調整池底質よりさらに悪化していることが示されている。これは、都合の良いデータのみ列挙して、都合の悪いデータを無視した非科学的考察と言うべきである。

(3) 報告書は、「締め切り堤防建設以前の自然環境状態が再現されていない状態では浄化機能の評価・推定は困難とする意見がある」と述べている。また、陸地化が進んでいるので、かつての諫早干潟のような泥質干潟の生物相を再現はできないと考えられる・・・・ので、諫早湾干潟の再現したような物質循環、水質浄化機能を調査することは難しいと思われる」と述べている。これは、1)の(2)と同じ問題であるが、先に述べたように、佐々木ら(2003)は実際に浄化機能を評価しているので、この見解はあたらない。さらに言えば、陸地化したことがそれほど問題としたいならば、陸地化したところを干潟にもどす選択肢も含める必要がある。

(4) 報告書は、「水質の変化は、・・・見極めることは難しいと思われる」と述べているが、これは、1)の(3)とまったく同じ思考方法であり、哲学的には不可知論である。一方ではシミュレーションでいろいろなことがわかると言っておきながら、他方で現場観測では何もわからないと言うのは、矛盾するし、ご都合主義といわれても仕方がない。

3) 貧酸素水塊

(1) シミュレーションでは、貧酸素水塊に関係する塩分躍層は筑後川系の水によって形成される(したがって調整池からの淡水供給は関係がない)と述べている。これは貧酸素水塊形成の機構について論じたものである。シミュレーションの問題点はすでに述べたので省略するが、一般的に考えて、淡水が筑後川から来ることもあり、調整池から来ることもある。その寄与の仕方は淡水供給量、風向・風速その他で異なる。貧酸素水塊は淡水供給だけで決まるものではなく、底質の有機化、底層への酸素供給なども関連する。少なくとも諫早湾内の潮流が弱まっているので、諫早湾の湾内および湾口における水平および鉛直の酸素供給量が弱まっていることは明らかである。さらに調整池の水質悪化に伴い諫早湾内への汚濁負荷量が増加することによって、湾内底質の悪化が引き起こされていることも明らかである。したがって、諫早湾内および湾口では締め切り以前より貧酸素水塊形成が起きやすいことも明らかである。シミュレーションでこのことが明らかにならなかったとするならば、何故そうなのか説明されないと、誰も納得できない。

(2) 報告書では、佐賀沖でも諫早湾と同じように貧酸素が生じていて、さらに佐賀沖では1970年代から起きているので、その原因が別個のものと述べている。1970年代から佐賀沖で起きているということは、この海域は貧酸素になりやすい、その原因は湾奥においては有機物供給(おそらく植物プランクトン)が多くて、かつ流れが比較的弱いためと考えられる。しかし、諫早湾干拓事業による水域面積の減少、15km2もの干潟の減少が潮流を弱めたとすると、もともと貧酸素になりやすい場所の貧酸素化を促進することになる。このことの検証のためにも、開門調査が必要である。

(3) 報告書は、例によって「・・・開門による貧酸素現象の発生状況の大きな変化を観測できない可能性がある」と述べている。これは繰り返し述べたように、不可知論である。変化があるのかないのかを調べるために開門調査が企画されたのではないのか。少なくとも諫早湾内の流れと調整池の浄化機能が回復すれば変化が生じる可能性は高いのである。

4) 底質・底生動物

(1) 報告書は、「コンピュータ解析からは、諌早湾湾口の一部で潮受け堤防により底質が細粒化する傾向がみられたが、観測データからは、湾口付近の底質の粒度について一定の変化傾向はみられなかった」と述べている。しかし、長崎大学の東教授らは、最近のベントス学会において、1997年と2002年6月の有明海全域の底質を比較して、全域では湾中央部のMdφの分布が1.0から1.5になっていること、諫早湾湾口ではIIIa型がIIIb型へ、また湾口から熊本側へはIIb型が拡大してIIa型が減少していることを明らかにした。すなわち、全体として細粒化していることが示されたので、コンピュータ解析が誤っていることが示された。

(2) 報告書は、「全面開門して海水導入を行ったとしても、潮受堤防がある状態では、人工的に新しい環境を創り出すことであるので、開門調査はこの新しい環境を対象にした調査となり、潮受け堤防が有明海の環境に及ぼした影響を見ることにはならないことを認識することが重要との意見が出されている」と述べている。これも、1)の(2)その他で述べたように、開門することは、現在の締め切り状態よりは以前の状態に近い状態を作り出すことで、そのことにより調整池内のみならず諫早湾内の底生生物が増加することが期待され、そのことが浄化機能その他によって締め切られていることの問題点を明らかにできるのではないか。

(3) 報告書は、「開門により諌早湾内に新たな物理的環境の場を創設し、それに伴う底生生物の変化を観測することに関しては、底生生物の変化を引き起こしている要因が複合的なものであるため、数年かけて調査を行っても生物の消長に対する開門の影響を評価することは技術的には難しい」と述べている。これも、1)の(3)その他で批判したように、底生生物が増加したとした場合、何故増加したのかを調査・解析することがそんなに難しいことなのだろうか、底生生物研究者に質問してほしい。変化が起きれば、それは開門によることというのは誰もが納得することではないだろうか。

5) 赤潮・プランクトン

(1) 報告書は、「赤潮発生のメカニズムについては未解明の部分が多く、発生種によってもメカニズムに相違があるといわれている状況の下で、その原因を特定し物理的要因、特に、潮受堤防締切と直結させて解明することは、現在の科学技術では困難」との見解、さらに「栄養塩、日照時間、透明度、貧酸素、風波による表面の擾乱等関係する要因が多いため、赤潮の発生と消滅の因果関係については不明な部分が多く、開門してプランクトンの観測結果を得たとしても、これを開門との関連で解釈、検討することは難しいと考えられ、先ずは有明海の赤潮発生のメカニズムの解明が急務」という見解が紹介されている。報告書も認めているように、締め切り以後赤潮発生回数が増加した、このことが、締め切りが赤潮を引き起こしたという大きな疑いとなっているので、開門して調査しようということになった。ここでは論理のすり替えがある。赤潮研究一般を取り上げて、赤潮研究そのものが難しいからまず赤潮発生に関わる諸問題を取り組むべきであると述べて、開門調査によって赤潮発生機構に関する調査・解析がなぜ難しいのかについては触れることなく、困難と述べていることである。
 有明海の赤潮について調査している熊本県立大学の堤教授は、この点に関して以下のように述べている。「熊本県立大学環境共生学部の堤研究グループが明らかにした最新の調査結果 では、現在、有明海異変の現象の中でもっとも注目を浴びている現象の1つである「ノリの色落ちをまねく赤潮」は、有明海奧部海域で発生している。その発生時に共通した特徴は、表層が低塩分化して成層構造が発達し、そこへ栄養塩が流入して高濃度に達し、赤潮プランクトンの発生をまねく条件が揃っていることである。このような表層水の低塩分化による成層構造は、梅雨期(7 月)とノリ養殖が行われる秋季から初冬(10月〜12月)に発生する。この 調査結果は、既に、中・長期開門調査検討会議でも報告済みである。一方、このような有明海奧部海域での表層水の低塩分化による成層構造の発達は、これまでの有明海沿岸4県の水産研究機関による浅海定線調査や水産庁の研究機関による調査では、調査方法および調査精度の問題で観測されていない。また、九州農政局の短期開門調査報告書、諫早湾干拓事業開門総合調査報告書等、農水省が行ってきた調査においても、これだけ有明海奧部海域における「ノリの 色落ちをまねく赤潮」の発生と諫早湾干拓事業との関係の有無を明確化することが求められてきたにもかかわらず、調査海域は諫早湾およびそのごく近傍の有明海に限られ、諫早湾の潮受け堤防の締め切りに伴う潮流の変化と実際に「ノリの色落ちをまねく赤潮」が発生している有明海奧部海域における海洋構造への影響という視点からの調査、分析はこれまでまったく行われてこなかった。このような状況で、諫早湾の潮受け堤防締め切りと有明海奧部海域における「ノリの色落ちを招く赤潮」の発生との因果関係について、無関係であるという結論は科学的にはとうてい下すことができない。潮受け堤防の中長期開門調査を行い、諫早湾と有明海間の海水流動を潮受け堤防締め切り以前の状態に可能な限り戻した状態で、これまでの農水省が行ってきた諫早湾およびそのごく近傍の有明海における調査ではなく、実際に「ノリの色落ちをまねく赤潮」が発生している有明海奧部海域を含んだ範囲において、水質の鉛直プロファイルについての精密な海洋観測を行い、諫早湾の潮受け堤防の締め切りに伴う潮流の変化が、有明海奧部海域で「ノリの色落ちをまねく赤潮」の発生の原因となる表層水の低塩分化による成層構造の発達度合いに対して、影響を及ぼしているのか、いないのかということを明確にする必要がある。報告書では、このような研究成果にまったく触れていないのは、科学的な見解とほど遠いことを示している。

6) 漁業生産

 報告書は、「開門したうえで漁業生産に係る変化を観測したとしても、開門による物理環境へのインパクトが漁業生産にどのように影響したかを明らかにすることは難しく、開門調査によって諌早湾干拓事業と漁業生産との関連を直接的に検証することは期待できないと思われる」と、述べて、漁業生産に対する締め切りの影響を調査することを初めから拒否している。これは専門家として期待されている役割をまったく放棄した見解といわざるを得ない。漁業統計を見る限り、以下に述べるように明らかに干拓事業によって海面漁業漁獲量が減少していて、さらに養殖ノリ生産量も減少している。このような実態を見ても、干拓事業と漁業生産との関係を開門調査によって検証することは期待できない、と言って調査をしないことが許されるだろうか。具体的には、ノリは赤潮の頻発、タイラギは貧酸素と底泥の細粒化が原因ではないかと考えられているので、それを明らかにするためにも、開門調査を実施すべきで、調査をしない理由は考えられない。

(1) 海面漁業生産から見た諫早湾干拓事業の影響についての疫学的考察・・・第7回専門委員会に提出された海面漁獲量の推移を見てみる。1979年がピークであり、1982年まで減少し続けている、その後1983年の大きなピークと1990年の小さなピークを除けば1992年まで一定している。1993年から減少し始めて、1997年以降減少速度が大きくなっていることを示している。たしかに1982年までの減少は締め切りとは関係ないことである。しかし、諫早湾干拓事業は1989年から始まり、詳細は省略するが工事の進展に伴い諫早湾周辺から漁獲量の減少が生じていて、1993年からの減少はそれを反映していると見ることができる。

(2) タイラギ漁獲量の推移・・・漁獲量を漁場別に見ると、明らかに有明海西側が1993年以降でも、1997年以降でもそれ以前の平均値と比べると極端に低くなっていて、諫早湾締め切り工事および締め切りの影響を示唆するものである。

(3) ノリ養殖・・・漁連のまとめでは、有明海を除く全国の1993-1997年の生産枚数は5806175、平均単価は9.86円であり、1998-2002年では5901230で単価は9.86円であった。一方有明海ノリは前者が1455876で12.01円、後者が1205440で11.19円であり、有明海で締め切り後悪化していることが示されている。

調査による漁業影響と対策

1) 諫早湾内の環境と漁業への影響・・・報告書に述べられているように、また昨年実施した短期開門調査によって生じたことでも明らかなように、開門によって主として濁りが原因で諫早湾沿岸部のアサリ漁業などへ悪影響が生じる可能性は高い。この原因は、現在の調整池水質が悪化していることに加えて、開門により速い流れが生じたための底泥の洗掘と巻き上げである。しかし、この悪影響は、短期開門調査が示しているように影響も短期間である。その原因は、塩分導入によって浮泥が堆積して、濁度が減少するからである。実際に以前の干潟では強い潮流があったのに漁業被害は生じていないことからも、このことは明らかであり、短期開門調査でも調整池内の水質が改善されるとともに、潮受け堤防前面の濁りもなくなった。開門調査の目的は、締め切りが有明海漁業に影響をおよぼしたかどうかの検証であり、この検証の過程で生じた被害は補償すべきものである。被害がでるから開門調査を行わないというのであれば、水域における港づくり、その他の工事はなにもできなくなるのと同じで、干拓工事でかなりの被害を生じさせたのに、その検証は被害がでるので行わないということになり、認められない論理である。

2)背後地への影響と対策・・・塩害の問題は、1)で述べたのと同様、過渡的にはやむをえない措置と考えざるをえない。

以上


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