今からでも遅くない。干潟の再生と潮流・潮汐の回復こそが
諫早湾と有明海沿岸の未来をひらく


干拓事業による環境破壊は有明海全体に拡大
 1997年4月14日。いわゆる「ギロチン」によって諫早湾が閉め切られ、3500ヘクタールもの国内最大級の干潟域が干上がり、豊かな生態系が失われてから、まもなく10年になります。問題の諫早湾干拓事業は、今年の夏には工事が終了し、農水省や長崎県などは、事業があたかも完成したかのような宣伝をするに違いありません。しかし、それはあくまでも「名目上の完成」に過ぎません。
 私たちがまず振り返らなければならないことは、私たち自身が、諫早湾の干潟の本当の豊かさや大切さを、10年前の閉め切りによって、はじめて知ったということです。本来ならば、閉め切り直後の社会的な関心が盛り上がった時期に、即座に事業を中止すべきでした。そうすれば有明海の漁業被害がこれほど深刻化することもなく、また、事業に投じる費用も、現在の約2500億円の半分程度で済んだはずです。
 しかし事業がそのまま進められたため、諫早湾閉め切りによって有明海全体の潮流・潮汐が弱まり、これが「有明海異変」とよばれる有明海の広範囲にわたる漁業不振の要因となりました。このメカニズムを国側は認めていませんが、海洋学会などの専門家によって、これを裏付ける研究が多数発表されています。



無駄な農地造成、水質悪化のツケは長崎県民に
 長崎県は、造成された800ヘクタールもの干拓地を一括して県の農業公社に買い取らせようとしていますが、これは「優良農地」として造成したにもかかわらず、売却のメドが立たないことの証拠であり、この手続き自体が違法だとして長崎県民が訴訟を起こしました。
 調整池の水質は、現在でも水質目標値を大きく超えたままで、水質改善は極めて困難です。同じような状況にある岡山県の児島湖の例を見ても、莫大な費用を文字通りドブに捨てることになりかねません。
 事業推進の殺し文句にもなった防災効果も、実際にはほとんど期待できないことが明らかになっています。

今からでも事業を中止し、諫早干潟の再生を
 結局、諫早湾干拓事業は、貴重な干潟を消滅させ、有明海の漁業に甚大な被害を与え続けるもので、農水省による費用対効果の計算によっても、社会的な効果が費用を大幅に下回っています。仮に事業が「名目上の完成」をした後からでも、水門開放や潮受堤防の撤去等で、諫早湾の干潟と有明海の潮流・潮汐を回復し、有明海の漁業を再生することこそが、社会全体の利益につながるということを、私たちは具体的に示してきました。
 今こそ、諫早湾干拓が何をもたらしたのかを冷静に振り返り、諫早湾閉め切りから10年の節目を、干潟と海と地域社会を再生するための転換点にするべきではないでしょうか。

(諫早干潟緊急救済東京事務所 菅波 完)