諌早湾閉め切りから1年

山下 弘文(諫早干潟緊急救済本部代表)

 諌早湾の衝撃的な締め切りから1年が経過した。この1年間の経験は驚くべきことばかりだった。農水省の官僚を中心とした日本の官僚政治の実態を肌身で感じたり、政府の対応のずさんさ、地元長崎県知事や議員などの勉強不足など、数え上げればきりがない。

 一方、今なお生き抜いているムツゴロウやカニたちの生命力の凄まじさにはカブトを脱ぐと同時に感動すら覚えた。人間の浅はかさをこれほどまでにあからさまにした自然破壊はないだろう。それでもなお見直しに踏み込めない日本の環境行政とは、一体、何だろうかと疑問がわいてくる。

 この1年間で水門は開放出来なかったが、運動は確実に大きな成果を上げつつあることも感じている。建設省はダムの中止をし、農水省すら熊本県羊角湾干拓や佐賀県有明干拓を中止せざるを得なかった。これらはすべて「ギロチン効果」とも言えるだろう。

 諌早湾問題は1年目を迎えて、ようやくその緒に就いたばかりだと考えている。献身的な学者グループの科学的な報告書も完成し、各方面から大きな注目を浴びている。この報告書は、国側が主張する論拠を完膚無きまでに論破すると共に、干潟の賢明な利用についても説得力のある主張が展開されている。この報告書は、単に諌早湾開発の問題だけではなく、各地の公共事業を見直す手掛かりにもなるだろう。また、諌早湾を守る議員の会も態勢を立て直し、改めて政府に対する対応を強化しようとしている。

 さらに国際的にも諌早湾干潟の保護は、改めて大きな問題として浮かび上がった伊勢湾藤前干潟開発問題と共に、再度、国際的な課題として浮かび上がって来つつある。

 3月2日から3日間、釧路市で開催されたラムサールのワークショップでは、新しいラムサール条約事務局長デルマ・ブラスコ氏と昼食抜きで2時間にわたって諌早湾と藤前問題について話し合うことが出来た。その中でブラスコ事務局長は、来年5月に南米コスタリカで開催される第7回ラムサール条約締約国会議は日本の干潟の問題が大きな課題になることを示唆された。日本が環境問題先進国として世界に認知されるのか、逆に世界各国から大きな非難を浴びるのか、諌早湾問題の解決如何にかかっていると思われる。

 4月14日は「干潟を守る日」として今後毎年、各地で大きな運動を盛り上げることになった。来年のこの日は、ラムサール会議前である。全国各地で干潟保護のうねりを作り上げて行きたいと考えている。


イサハヤ干潟通信第8号より転載*


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