進行中の諫早湾干拓は水害対策といわれていたが、昭和58年の諫早湾防災対策検討委員会中間報告書では3000ha台の締め切りでは水害対策にならないと報告されている。たとえ3900haでも完成後2300haが浸水するとされ、国土保全上重要な問題があると指摘されている。この報告書は諌早市にすら正式に公表されていなかった。農水省や高田長崎県知事は当初から水害対策にはならないことを知りながら、水害対策と偽って県民を説得したのだ。 営農計画も不透明だ。酪農・野菜団地というが、担当の丹羽課長補佐は農水省の計画ではないといい、地元では農水省の計画であるという。県は1年以上かけて利用計画を策定する。公共事業にしては余りにお粗末だ。最も新しい佐賀県有明干拓地では酪農が失敗し県も参加した第3セクターのゴルフ場がある。九州農政局すら農地法違反であるという。

 はたして入植者はいるのだろうか。昨年の計算で10アール当たり110万円だといわれているが、これは工事の経費がかさむと上がっていく。17600mの内部堤防の建設費は7050mの潮受堤防よりも経費がかかるのは当たり前である。受益者である入植者はこの経費の18%を負担することになっている。また、その利子は5%である。

 諫早湾干潟開発の最大の問題点は7050mの潮受堤防の建設である。この堤防建設を中止し、従来のような小規模な地先干拓を実施していたならば、干潟生態系に対する影響は極端に小さくなり、渡り鳥を中心とする諫早湾干潟生態系の保護・保全ができたはずである。

 3500haの面積を持つ諫早平野は2000年の干拓の歴史を持っている。人間の手による干拓は約600年前から行われてきた。しかし、現在では減反と都市政策によりあっと言う間に町ができ小学校、干拓の里などの施設が建設された。優良な農地は次々につぶされている。

 諫早湾沿岸周辺の先人が実施してきた地先干拓は、自然に逆らわない小規模干拓であり、周辺の災害防止、農漁業振興、干潟生態系保全を行ってきた。ラムサール条約に言う「賢明な利用」の典型的な方法だった。今必要なことは干潟生態系を破壊することなく、多くの人々が永久に干潟を利用するような新しい視点に立った干潟利用計画を立案することだ。

 農水省は潮を入れることに大きな抵抗を示している。排水樋門を解放すると干潟はこれまで以上のスピードで堆積するという。しかし、私たちは排水樋門の解放は小潮満潮時までの水位でよいと主張している。大潮の時には樋門を閉めるか流速、水量を落とせばいい。

 干拓賛成派が多い小野・森山干拓の低地は何故問題なのか。それは諫早湾全体を締め切る構想があったため戦後第1期工事森山干拓完成後、第2期小野、第3期長田干拓を実施しなかったからだ。従来、堤防の先に干潟が1mから1.5m堆積したころ地先干拓の造成が行われていた。こうすると水抜きによって新たな干拓地は既設干拓地と同じレベルとなり排水問題は解決していた。それを実施しなかったため低地部では2.5〜3mも干潟が堆積してしまい、常時排水が困難になったのである。行政の防災に対する怠慢以外なにものでもない。

 調整池の水位を常時マイナス1mの保つと自然排水が可能というが、大雨で調整池水位が上昇し、堤防外が調整池の水位を超えると排水ができない。それに伴い低地部の自然排水も不可能になる。そのため強制的に排水ポンプで排水する以外に解決の道はない。


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