干拓工事現場での漁民の抗議行動(8月19日)

桐ヶ谷眞知子(有明海漁民・市民ネットワーク)

 8月19日の諫早湾干拓工事現場での漁民の抗議行動が、一部の報道では「工事現場に侵入」「強引な行動」などと伝えられていますが、私自身も現場に行っていましたので、実際の様子をご報告いたします。

 私は18日の夕刻に九州入りし、その夜は島原漁民のYさん宅にお世話になりました。19日には「ノリ博士」の太田扶桑男先生が現地の激励に来てくださることを聞き、喜びました。いつものように3時近くまでご家族の方といろいろお話ししました。

▲早朝から集まった漁民や報道陣
 19日は現場に8時近くに到着。すでに多くの漁民と、Yさんと同じ島原漁民のNさんがおりました。Nさんが4時に起きて現場に来ると、朝の5時にはすでにトラック3台が入ってきて、2台は入られてしまいましたが、残り1台は一人で阻止してくれたようです。Nさんは「馬鹿にするな!」と怒ったようです。

 そのうちにMさんがこの上ない悲しい表情でゲートにしがみつき、中のガードマンに「責任者である干拓事務所の人間を呼べ! 俺らはこのままでは殺される。必死でやっているのだ」と一人訴ええる姿は、とにかく胸の痛む状況であり、本当に涙をこらえる光景でした。

▲漁民はでゲート前で座り込みを続行
 それから座り込み現場でMさんが持ってきた関連の新聞記事を皆で読みましたが、学者をはじめとした人たちが、諫早干拓事業が有明海の環境悪化の要因であること、それらを自分たちの代弁者となって語り始めてくれていることに心強さと期待感、またすがるような気持ちを持って読んでいるように見受けられました。新聞を読んだり、ガードマンと交渉しているうちに、11時ごろ漁民の神様である太田先生が到着。途中で先生自身もいろいろなところで採水してこられたようです。

 ちょうどそのころ、ある業者の車がゲートを出るので、門を開けましたが、同時に太田先生の乗っている車を中に入れ、ゲート内で太田先生が漁民の皆さんを激励。多くの漁民が拍手。漁民の皆さんが太田先生に元気付けられたところで、勢いづき、一斉に漁民が自分たちの車も入れ、車を連ねて、工事現場を確認に行きました。私も福岡のトラックの荷台に飛び乗って便乗。

▲「ノリ博士」太田先生が到着
 とにかく広い! 干拓面積が縮小されてこの広さとあっては、漁民もその広さに圧倒されたばかりでなく、どれほどの干潟と海を潰した事業なのか驚愕していた様子でした。まず、前面堤防工事現場に敷設された「ネット」を見に行きました。何だか思っていたよりもチャチイし、固定ロープをほどいて撤去しようと思えばできるような状況。ある漁民のセリフ・・・「全く意味がわからん!!」。

 そしてまた進むと、何やら重機が動いている。まさにあの土壌改良工事が行なわれていました。近くには、「土壌固化材」と書かれている佐賀県のセリタ工業のトラックが止まっていて、消石灰の空き袋が山積みになっており、重機によって石灰が地下3m近くまで混ぜられていました。

 驚いた漁民は工事作業員に近づきましたが、相手は事前に指示されているのか衝突する様子も全くなく、無用な混乱を避けるごとく、すぐに作業を止め、すんなり自分たちのトラックに乗り込んで、こちらの様子を伺っているだけ。そのうちに弁当を食べ始めました・・・。漁民はしばらくその現場の視察を行いました。わたしもその土と石灰を袋に詰め、後で太田先生に渡しました。

▲土壌改良のためにまかれた石灰
 そのうちに長崎の古賀建設の業者3人がやってきました。何と丁重に「今日の作業をさせて下さい。これだけはさせて下さい。」とお願いをしてきます。
 しかし、漁民は自分たちの現状を訴え、「あんたたちはこれが終わっても仕事があるが、その仕事が終わったら俺たちは、有明海は死ぬんだ。俺たちは俺たちの財産と生命を守るために来ている! どれだけこの事業で仲間が自殺しているか! やるならやってみろ! 俺たちは断固としてあんたたちをひきずりおろして阻止する!」と・・・。「これらを壊し、自然を戻す工事なら、いくらでもあんたたちを俺たちは支援する!」

 相手はそれを聞いて下を向き、なかば泣きそうな顔で聞き入っている。そして漁民もそれを十分感じ取って「あんた達が直接悪いわけでないのは、わかっている。悪いのは農水省だ。こういう状況になっても責任者としてここにこない農水省が悪いのはわかっている・・・」。
 そして、一緒にいた有明海漁民・市民ネットワークの顧問の熊本一規教授もその業者に対して、農政局にもっと漁民と話し合いの場を持つようにそちらからもお願いして欲しいこと、この漁民たちの行動は合法であること、訴えられるのは工事関係者であることを説明しました。

▲抗議行動中も工事が行われている
 そのうちに干拓地内で迷子になっていた太田先生の車が到着しました。今度は太田先生からその業者に話をされました。この干拓事業がどれほど有明海に影響を及ぼしているのか。今やっている石灰での工事がどれほど海の生物にとって致命的であるのか・・・。

 そして最後に干拓事業だけでなく、人間として自然というものを壊してはいけないということを、言い聞かせるように話してくださいました。業者はしばらくの沈黙のあと、「わかりました。今日はこれでやめます」と苦しみながらも決断。そして作業員に指示し、撤去作業を始めたのです。ただ石灰が風で飛んでしまうので、板だけはかぶせさせてくださいと言ってきました。もちろん承諾。

 多くの漁民がゲートに引き上げ、Mさん、Nさん、熊本先生、私は最後まで見届けないと安心できないため、作業を監視することにしました。途中、業者が青いシートをたたむのに強風で上手くできないので一緒に手伝うことに。こればっかりは何だかお互いに変な気持ち。漁民の人の良さを実感・・・。

▲建設重機の前に集まった漁民たち
 こんな状況だったので、農政局が言うような「暴言」なんて全くありはしません。本当に業者がちょっとだけかわいそうになるような場面でした(あくまでもちょっとだけです。私だって健全な猜疑心はいつもある)。とにかくこのような状況にあっても責任者である干拓事務所が現場に来ないことに、この上ない憤りを感じたのでありました。

 それからゲートに戻ると、有明海漁民・市民ネットワークの顧問である錦織淳弁護士と、事務局の羽生洋三さんがちょうど到着しておりました。錦織先生は現場にいた漁民の皆さんを激励し、今後のことについて話をして、その日の最終便で帰りました。

 とにかく現場に行くと、漁民の必死な緊迫した状態を身体で感じることができます。9月以降は市民の私たちも全力で、国会対策を軸に彼らを支援していかなければならないと思います。

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