諫早湾自然の権利訴訟 1999年10月23日現地検証指示説明書

(4)潮受堤防(中央部)
原告側
指示説明
1 生息地の変化
 諫早干潟はムツゴロウ、シオマネキ、ハイガイなどの底地性生物の豊富さでは我が国有数の自然度の高い干潟であった。この地点付近では漁民らがカスミ網、手押し網などの諫早干潟独特の漁などが行われている様子がみることができたはずである。多くの渡り鳥の飛来地でもあり、この地点に立てば本来は多数の鳥が観察されるはずである。現在はその様子を想像することもできない。

2 支持地盤など
 全長七〇五〇メートルの潮受堤防の中間地点である。原告らは地盤の不安定さゆえに不等沈下、沈没などが起こりこの堤防が損壊する危険性を指摘している。堤防が決壊した場合には外海の水が内部に侵入し、本件開発区域及び周辺部に大きな被害をもたらす。
 本件潮受堤防は有明粘土層と呼ばれる軟弱地盤に建設されるために、その安全性が問題となっている。被告は支持地盤を二〇メートル以深の砂礫層までとすることとサンドドレーン工法とサンドコンパクションパイル工法の組み合わせによる地盤改良によって潮受堤防の崩壊、損傷などを防止できるよう建設されているとしている。
 しかしながら、有明粘土層といわれる軟弱地盤について地盤自体の砂礫層自体についても水深三〇メートル についても液状化現象が報告されている例からもわかるように安全性が保障されているわけではない。

3 この場所から調整池を眺めることができる。当初の説明では締め切り後に淡水化し、干拓農地に農業用水を供給する計画であり、潮受堤防による締切後は三ヶ月で淡水化するということであった。しかし、淡水化は現時点でも実現していない。
 いこいの里からの眺めからもわかるが、外側と内側とでは水の色が異なる。この調整池には本明川及び有明川などから河川水が流れ込んでくるのであるが、下水処理能力に限界があるため干潟などの汽水域で浄化されるほかはない。しかし、干潟が消滅して干潟を中心にした生物層の喪失は干潟の浄化能力を奪った。そのために、本件調整池の水質は潮受締め切り以来悪化の一途をたどり、農業用水としての利用も限られることになる。
被告側
指示説明
 高来町金崎名地先から約3キロメートル先の地点であり、北側に向かって右側は有明海で堤防法面は大きな被覆石(南北排水門の間は一個当たり2トン以上、その他は一個当たり1トン以上)で覆われている。また、天端中央から海側へ約55メートル、調整池側へ約63メートルの各地点にあるブイの位置が堤防先端に当たる。
 左側は調整池で、堤防の上段法面は植生がなされ、天端から一段下がったところが管理用道路で、その下段は小さな被覆石(1個当たり50から200キログラム)で覆われている。
 堤防天端には等間隔で沈下計等の施行管理用の機器が設置されているが、堤防は所定の高さに出来上がっており、堤防天端、管理用道路には不等沈下は認められず、またこれによる亀裂発生・破砕の危険性が大きいという事実も認められない。
 なお、サンドコンパクションパイル工法は、地盤自体の強度を増加することにより、地盤上の構造物を地盤全体でささえるものであり、本件潮受堤防が新耐震設計法(案)により耐震設計を行い所定の安全性を確保していることは、被告準備書面(七)及び(八)で主張したとおりである。
 また、原告は深さ30メートルの砂礫層で液状化が発生したかのように説明しているが、そのような報告例はない。


潮受堤防中央部から北部排水門を望む(右側が外海)


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