国営諫早湾干拓事業に関する再質問主意書と回答

五 財政問題

1.
 事業計画で挙げる災害防止効果(年間40億4000万円)の「災害」の具体的中身は何か。予想される人損、物損、被害地域、地域ごとの具体的な被害内容などの項目を挙げ、具体的に説明されたい。

(答) 災害防止効果は、伊勢湾台風級の高潮と諫早大水害級の洪水が同時に発生した場合における事業実施前と事業実施後の想定被害額の差を算定し、年当たりに換算したものであり、その想定被害内容及び効果額は別表4のとおりである。

2. 農水省の発表によると、潮受堤防建設の当初予算が440億円のところが、完成時で1190億円と約2.7倍に膨らんでいる。このように予算が膨張した理由を工事内容、工法の変更、追加など具体的に明かにされたい。

(答) 潮受堤防の工事費は、事業計画策定時において約440億円であったが、その後、資材費や人件費等の物価上昇による増額約173億円、潮止め工において濁りの発生を抑制するためにゲートを用いた瞬時締切方式に変更したことによる増額約161億円、当初南側1か所であった排水門を北側及び南側の2か所に変更したことによる増額約125億円、潮受堤防の基礎掘削の追加による増額約76億円があったこと等により、約1190億円に増加したものである。

3. 内部堤防建設を含む「開畑工事等」の工事ごとの当初の細目(内堤防、干拓地造成費、排水機場、建設道路などの詳細)の予算と、完成時点での同予算を明かにされたい。

(答) 国営士地改良事業特別会計における「諌早湾(開畑工事等)」の事業計画策定時における事業費の内訳は、内部堤防が約300億円、地区内整備が約170億円、補償費等が約230億円、合計で約700億円と見込んでいた。
 「諌早湾(開畑工事等)」の現在の事業費は、約830億円と見込んでいる。

4. 完成までの予算を2370億円に修正しているが、予算はこれ以上膨張することはないか。枠をはめることが可能か。可能ではないというのなら、潮受堤防建設で2.7倍にも予算を膨らませたように予算としての意味をなしていないのではないか。現在の技術的経済的要素を考慮して、今後必要とされる建設費はおおよそどの程度と見込んでいるのか。

(答) 現在、総事業費については、2370億円と見込んでいる。平成9年度以降の事業費については、約800億円を要するものと見込んでいるが、物価変動等の不確定要素もあり、枠をはめることは困難である。

5. 土地改良法に基づく同法施行令2条3号では、経済性の要件を挙げ、投資効率を当該土地改良事業から生じる効用(農作物純収益額+維持管理費節減額+営農労力節減額)を{資本還元率×(1+建設利息費)}で除し、さらにこれを総事業費で求められることになっており、その効率係数は1以上でなければならない。そこで、本件事業策定時と現在時点での効率係数を計算式とともに明らかにせよ。投資効率が法定基準から大幅に下回ることがが明らかな場合には、事業の続行自体に社会的、経済的意味が失われ、なおもこれを続行することは違法になるのではないか。違法となる場合には、即刻事業を中止すべきではないか。

(答) 「土地改良事業における経済効果の測定方法について」(昭和60年7月1日付け農林水産省構造改善局長通達)(以下「構造改善局長通達」という。)に基づく国営諫早湾干拓事業の事業計画策定時における投資効率の計算式及び結果は別記のとおりであり、本事業は土地改良法施行令第2条第3号の要件を充足するものである。
 また、事業実施途中における現時点での投資効率の算定は行っていない。
 なお、農林水産省としては、事業採択後一定期間を経過した国営事業地区を対象に、事業の進ちょく状況、関係機関の意向、営農、事業効果を取り巻く情勢の変化等について再評価を行い、その結果を事業の実施に反映させる「再評価システム」を平成10年度から導入することとしている。

6. 本件事業において、投資効率の算定にあたって、災害防止効果(防災機能に基づく)という外部経済的な要素を重視している(その効果は年間に40億4000万円と算定している。)。しかし、干潟を喪失させることによって失われる干潟の浄化作用、漁業資源、鳥類や底生生物などの環境資源、干潟の持つ観光資源などが全く考慮されていない。これは常識に反するし、法の趣旨(前記施行令2条1号)にも反するのではないか。あえて、これらの外部不経済を無視した理由は何か。仮に、このようなやり方が政府の決めたこと(農業農村整備計画作成便覧第4版)にもとづくものであるとするなら、そのような方法を変更することを検討すべきではないか。

(答) 構造改善局長通達において、外部不経済の算定については、「事業により漁業等の経済活動が阻害される場合は減少効果として算定する」こととしている。この場合、「減少効果に対応する補償費が総事業費に計上されている場合には算定しない」こととしており、国営諫早湾干拓事業の場合は、漁業補償費として総事業費に計上している。
 また、干潟を喪失させることによって失われる干潟の浄化作用、鳥類や底生生物などの環境資源、干潟の持つ観光資源などの外部不経済については、食料の安定的供給、淡水系の生態系が生まれることによる新たな環境資源の創出等の効果と同様に、現時点では貨幣評価する手法が確立されていないことから、土地改良事業では測定方法を定めていない。
 なお、国営諫早湾干拓事業は、環境影響評価を実施した上で、適切に実施しているものである。

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