二カ国間渡り鳥条約・協定相手国宛の資料(翻訳)

環境庁シギ・チドリ類渡来湿地目録
危機にある生息地の重要性を確認

日本国環境庁は1988年から1996年に実施された調査に基づき、1997年9月8日に日本の「シギ・チドリ渡来湿地目録」を公表した。基準のうち少なくとも一つを満たす生息地が73カ所特定され、またシギ・チドリ類にとって特に重要であるとして12の地域(うちいくつかは複数の生息地を含む)が選ばれた。これら12地域に関する判断基準は、5000羽以上のシギ・チドリ類が利用すること、2種(または亜種)以上について渡り経路の個体数の1%が利用すること、3種(または亜種)以上について0.25%以上が利用すること、である。これらの基準は、ラムサール条約およびアジア・太平洋渡り性水鳥保全戦略で用いられている国際的な基準に基づいている。

この目録は政府の公式文書である。日本政府は「アジア湿地目録」(IUCN,1989)のような非政府機関の(NGO)の作成したいかなる目録をも認めない。この目録が、二カ国間渡り鳥条約に規定された鳥たちの生息地の保護に向けた省庁間協力の基盤となることができると期待している。

多くの湿地保全団体が、長年保護にむけたキャンペーンを行って来た生息地の重要性を、この公的な目録が確認した。この生息地の多くが主に公共事業、とりわけ埋め立て事業による危機に直面している。このため、ロシア極東とアラスカで繁殖し、オーストラリアで越冬し、東アジア・オーストラリア渡り経路を移動するシギ・チドリ類の中継地としての価値が損なわれたり、破壊されることになろう。

これら重要な生息地の認定するもととなった研究によれば、シギ・チドリ類の最大カウントは諌早湾で記録され、そのカウントは9,424羽(1996/5/14)であった。諌早湾は農林水産省(農水省)の干拓事業によってこの4月に外海から閉鎖され、その生態系が現在死滅しつつある。政府は、干拓事業によって追いやられたシギ・チドリ類は有明海の中で替りの生息地を見つけるだろうと主張している。しかしながら、環境庁の目録によれば、有明海の中の諌早湾以外の二つの主要な干潟の最大カウントはわずか1,167羽と1,043羽(それぞれ1993/5/5および1989/9/15)であり、どちらも諌早湾の数字の十分の一をわずかに超えるだけである。

一方、農林水産省は「諌早湾の干潟から有明海のほかの干潟へのシギ・チドリ類の移動が確認された」と繰り返し主張してきた。この主張のもととなった調査はごく最近まで公開されていなかったが、これが誤解を生ませる部分的な真実であったことが明らかになった。ラジオ発振器を取り付けた3年間で74羽のシギ・チドリ類のうち、諌早から有明海のほかの干潟に移動したことが確認されたものは9羽だけであった。確かに上の調査は、大きな有明海の中で、諌早湾がシギ・チドリ類の中継地として明らかに圧倒的に重要な場所であることを示す。

[危機に瀕したその他の主要シギ・チドリ類生息地]

シギ・チドリ類の二番目(1996年5月12日に6,950羽)が記録されたのは、名古屋の藤前干潟である。名古屋市は藤前干潟のある部分を市のごみ埋立場として利用することを計画している。現在、工事着工予定が来年(1998年)3月と見込まれている。この埋め立てに対する環境影響評価報告書もまた、代替生息地が見つかるのでシギ・チドリ類に対する影響は小さいと主張する。しかしながら、伊勢湾の干潟の四分の三以上が既に埋め立てられており、また地域の非政府団体による詳細な調査によれば、埋め立てが予定されている区域はこの都市の中にある港に残されたわずかな干潟に住むシギ・チドリ類が好んで採餌に使っているとされる。

東京湾のラムサール登録地、谷津干潟は東京湾に10%残った自然海岸線に頼っているシギ・チドリ類が利用するいくつかのより大きな生息環境のごく一部分にすぎない。谷津を利用する鳥たち(96/4/29に最大カウント5,120羽)が頼る近くの生息地でも埋め立てが予定されている。博多湾の和白干潟では、1993年に始まった人工島の工事以来シギ・チドリ類の数が激減していることが地域の市民たちのモニタリング調査で報告されている。このほかに、吉野川河口、曽根干潟が危機に瀕している。

[全国的な抗議をリードする非政府団体]

日本湿地ネットワーク、世界自然保護基金日本委員会、日本野鳥の会、その他多くの地域的・全国的非政府団体は、二国間渡り鳥協定と、「特に水鳥の生息地としての国際的に重要な湿地に関するラムサール条約」の対象であるこれらの生息地の渡り性シギ・チドリ類にとっての重要さを何年もの間くり返し地方・中央政府当局に対して指摘してきた。上記諸団体は地域レベル、全国レベルでこれら重要な中継地を脅かす公共事業の見直しを繰り返し要請してきた。

公共事業計画再検討の機構確立に向けた動きが国民的関心の的となり、多様な事業に及んでいる。建設省は既に人々の声に応じて、18のダム事業を中止または懸案とした。多くの事業が環境庁の設置(1971)以前に計画された。事実、このシギ・チドリ類渡来地目録につながる研究を始めたのは諌早湾事業の環境影響評価を環境庁が承認した次の年からである。

[シギ・チドリ類たちの道を狭め、効果のない行動]

東アジア・オーストラリア地域渡り経路のシギ・チドリ類にとって、特に日本、朝鮮半島および中国を含む北東アジアの中継地の生息環境がとくに急速に失われつつあり、特に保護を必要としていることは国際的な認識となっている。1989年にアジア湿地局は日本の中南部の干潟を「低保護/高危機」という緊急の保護を必要とする湿地類型に分類した。東アジア・オーストラリア地域渡り経路のいくつかのシギ・チドリ類の種の個体数の凋落も指摘され、問題の深刻さを示した。

しかしながら日本政府はこれらの警告を受け入れず、これら湿地の破壊につながる悪名高い公共事業を追求しつづけてきた。日本政府が主導的な役割を演じて達成した1996年の東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類ネットワークの設立も、開発計画に対しては何の機能も果たさず、実際的効果も持たなかった。したがって、これは単に、日本に残ったシギ・チドリ類生息環境の大部分を政府が後押しして開発の大規模かつ不必要な犠牲にする、という歴然たる現実を覆い隠す役割をするだけである。


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