国際条約に関する件

1 諌早湾干潟は、ラムサール条約、生物多様性条約、世界遺産条約、または二国間渡り鳥条約(アメリカ、ロシア、中国、オーストラリア)上、どのような地位を有するか。
 これらの条約のなかで、ラムサール条約および世界遺産条約は、特定の区域の国際登録制度を有している。諌早湾干潟はこれらの条約の自然科学的な登録基準を満たしていると考えられるが、いずれの条約の登録地にもなっていない。他方で、ラムサール条約は登録されていない湿地も適用対象としており、その保護と賢明な利用を義務づけている。世界遺産条約も同様である。二国間渡り鳥条約は、渡り鳥にとって重要な区域の保護を義務づけている。生物多様性条約も、できるだけ多くの自然区域の保全管理を義務づけている。
2 諌早湾干潟を消失させることによって、上記の各条約上、それぞれ、どのような問題が生じるか。
 法的には特別の地位を有しているわけではないので、直接の問題は生じない。ただし、埋め立てという行為は、それぞれの条約にとって国際的な重要度が高い区域を意図的に消失させることであるため、条約の目的に反する事態を招く可能性がある。特に、ラムサール条約と渡り鳥諸条約については、関係の深い諸国に対して、また、その他の締約国及び国際社会に対して、十分な根拠を示して納得してもらえるレベルの説明をする責任が生じる。
3 ラムサール条約上、重要な湿地に登録するかどうかは、全く締約国の自由裁量に属するものであるか。行政が開発行為に着手しているとの理由で保護区にも登録湿地にも指定しないことにつき、国際法上問題はないか。干拓事業対象地であることが、登録しないことの正当な理由となるのか。
 ラムサール条約は、登録地の選定は全くの自由裁量ではないと定めている。特に、水鳥にとって重要な湿地は、第一に登録指定すべきであると定めている。また、同条第6項は、登録にあたって、移動性の水鳥の保護、管理及び賢明な利用についての国際的責任を考慮するよう義務づけている。
4 国際的に確立された湿地の「賢明な利用」にあたるかどうかの認定基準は、どのようなものか。
 正確には、ラムサール条約条文の3条と4条の規定、レジャイナ締約国会議で採択された「賢明な利用に関する定義」、モントール締約国会議で採択された「賢明な利用に関するガイドライン」、釧路締約国会議で採択された「賢明な利用に関する追加手引き」に従って評価し、判断されることになる。これらは、自然科学的項目だけではなく、国内法制度、住民参加手続き、環境影響評価手続きなどについても定めている。ただし、条文を除いて、締約国会議で採択された定義やガイドラインや手引きには、法的拘束性はない。
 また、環境影響評価は、賢明な利用や環境影響評価に関して、ラムサール条約が定められている上記のガイドラインや手引き、手続き、評価項目、評価手法などに基づかなければ、意味がない。既に行った環境影響評価は、それらに即しているとは考えられない。
5 その他
 国際法上の明確な遵守違反は見当たらない。ただし、環境条約においては、法的義務の遵守にとどまらず、必ずしも法的な義務とされていないことも含めて、効果的な実施を図ることが求められている。特に、先進国には、それが強く求められている。その観点からは、幾つか問題点が指摘できる。
 ラムサール条約候補地リスト、いわゆるシャドーリストの重要性とその作成の必要性は、締約国会議によって以前から指摘されてきており(たとえば、ブリスベン決議12)、自然環境調査や干潟調査、渡り鳥調査、また、建設省河川局や水産庁などによる調査もあわせて、シャドーリストの検討を進めなければならない。その際、研究者NGOによる調査やシャドーリストも参考にするべきである。


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