調整池の水質に関わる問題(要約)

1. 調整池内の水質現況
  (1) 調整池内の水質監視点(農水省モニタリング)での、COD(化学的酸素要求量)や全チッソ、全リンなどの水質測定値は、多くがその水質保全目標値を超えており、非常に有機性の水質汚濁が進んでおり、またチッソやリンの栄養塩に起因する富栄養化もかなり深まっていると推測される。その富栄養化の深まりにつれ、プランクトン類などの異常増殖(赤潮や水の華)など、今後、池内水質の悪化がより一層進むことが懸念される。
(2) 調整池内の水の淡水化はかなり早く進んでいるが、池底の粘土質を含むシルトが多い土質のため、今後は塩分濃度が4,000〜2,000ppm前後の間を上下する期間がかなり続くものと思われる。なお、外海から池内への日量約5,000立方mの浸透水と共に90〜60tぐらいの塩素イオンが、別に池内へ持ち込まれている。
2. 池内水質悪化の主要因
(1) 調整池の水質悪化の主要因は、本明川の河川水や、池の後背地における農地、畜産農家からの排水などの池内への流入にある…特に、流量などからみて、劣悪な水質の本明川の水に因るところは大きい。→家庭排水や流域の農業廃水が下流に流入している本明川等の水を、下水道整備などの十分な水質改善対策をしないままに調整池へ導入すれば、水質が悪化することは十分に予測できたはず。
(2) 現在は、この干拓地造成で死滅した魚介類や底生生物の遺骸が腐敗分解することによる有機性汚濁(COD)の負荷の増加もあり、それは今後もなおしばらく続くのでないか。
3. 農業用水としての将来的利用の可能性
農水省が暫定的に設けた調整池の水質保全目標値、湖沼のB類型水質の環境基準は、その水系の利用目的の一つに「農業用水」が挙げられており、その基準値をはるかに超えて水質悪化した調整池内の水は、農業用水としての使用に適した水とは通常認められない。また、有機性汚濁(COD)や栄養塩類の濃度が高い水は、水田などでは稲の葉や茎の徒長をもたらし、農業用水としては不適とされている(注1)。
注1;用水廃水便覧編集委員会編「用水廃水便覧改訂2版」(平成4年発行)
4. 水質改善対策をめぐる諸問題
(1) 本明川流域やその他調整池背後地での下水道整備に関して
1) 家庭排水の下水道による処理では、屎尿の汲み取りによる場合は、他所へ運ばれ捨てられていたものも、その下水道処理施設に流入する→そのため、CODでは、20〜25%程度、全リンでは約50%、全チッソでは70%くらいが下水道整備地では負荷の増加となるが、普通の下水処理ではチッソはまだしもリンはほとんど除かれない。下水の脱リン高度処理は、まだパイロットップラント段階の技術である。
2) 長崎県や諫早市は、諫早市の下水道普及率を対人口比で50%くらいまで早急に整備するとのこと→その主な処理対象である家庭排水からの有機性汚濁(COD)の負荷量は、この調整池に流入するCOD負荷量のわずか約33%と農水省が推計している。下水道の整備はもともと時間と金のかかるもので、建設省からの補助金を含めた具体的な予算措置などの裏付けのある下水道整備計画の策定が必要。
5. その他
(1) 調整池の現在及び近い将来の水質が、その後背地での抜本的な排水の処理施設が整備されるまでは、農業用水に適するものとはならないことが十分に予測されるので、池内の水質を早急に改善するためには、とりあえず、大雨が予測されるとき以外は、南北の水門を全面的に開いて海水を池に導入することである。
(2) このまま水質悪化の進行を放置すれば、甚だしくCOD値が高く、栄養塩物質が多量に溶存する調整池の水が、やがては定常的に隣接の有明海域に流入することとなる。その結果、その海域に及ぼす環境影響、特に近隣の水産業への影響…例えば富栄養化の進行に伴う赤潮やアオサの異常増殖、渦鞭毛藻による毒を持つ貝の発生など…も十分に懸念される。


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