諫干見直し案に対する県の確認事項と国の回答

 長崎県は工事の早期再開と水門開放拒否を前提に、2001年12月13日に諫早湾干拓事業の縮小見直し案の受け入れを表明しました。以下の文書は、その前段階でやりとりされた、見直し案(総合的な検討案)に関する県からの確認事項と国からの回答です。


13農振第2300号
平成13年12月10日

長崎県知事 金子 原二郎 殿

農林水産大臣 武部 勤

    国営諫早湾土地改良事業の「総合的な検討案」に対する
    確認事項について(回答)

 平成13年12月7日付け13諫干第47号をもって照会のあったこのことについて、別紙のとおり回答する。


「国営諫早湾土地改良事業の総合的な検討案」に対する確認事項及び回答

1.現在発揮さえている防災機能等の確保について
 現在、潮受堤防が完成し、調整池の水位が低位に保たれているため、高潮、洪水、湛水等の被害も解消・軽減され、防災効果が発揮されている。また、調整池が淡水化し,農地への塩水浸入や飛塩による塩害の発生もなく、樋門の管理なども軽減されている。更には用水の確保や地盤沈下対策についても有効な対応が図られるようになってきている。
 今後見直し等により、これらの防災等の機能が僅かでも損なわれることがあってはならないと考える。このことについて国の考えを伺いたい。

(回答)

  • 事業の総合的な検討に当たっては潮受堤防が完成し、調整池水位をマイナス1mを基本に管理することにより、防災機能が既に発揮され、地元から高い評価を得ていること等の状況は十分承知している。
  • 国としても、見直し案においてこれらの機能を維持していく所存である。
  • 事業の総合的な検討に当たっても、検討の視点の一つとして防災機能の十全な発揮をあげているところである。

2.営農用水の確保について

 造成された農地に使用する農業用水を確保するには、調整池の淡水化が前提と考えるが、国においても同様の考えか伺いたいまた、調整池における営農用水は安定した良好な水質であることが必要だが、現在の調整地の水質で問題はないのか。あわせて安定した営農用水を確保するためにどのような対応を考えておられるのか伺いたい。

(回答)

  • 今回提示した検討案では調整池を淡水化することを前提とした用水計画としている。
  • 調整池の水質は、北部承水路にある調査地点の塩化物イオン濃度によれば、営農上支障のないレベルにあると考えているが、今回の総合的な検討においては、取水口の位置について、より安定した水質の営農用水の確保を図ることとしている。
  • なお、調整池の水質保全においては、調整池内での対策はもちろんのこと流域における負荷軽減対策が重要と考えているので、長崎県及び関係市町村の一層の御協力をお願いしたい。

3.湾内漁業者対策について

・ 諫早湾とその周辺域における漁業者は、本事業の推進に様々な面で協力してきたところであるが、近年の漁業不振によって、経営は極めて深刻な状況となっている。一方、昨年度のノリ不作に端を発し、有明海の環境・漁場の再生が課題となっていることから、諫早湾及びその周辺域における漁業振興策の充実について、国において特段の配慮をされたい。
 また、調整池からの排水については、環境に一層配慮されるような対策を講じていただきたい。このことについて、国の考えを伺いたい。
・ 諫早湾内の漁業者は、漁業不振の中、生活資金を得るために諫早湾干拓事業の工事に従事していたが、突然の工事中断により、その仕事さえ失っている。
 今後の工事実施にあたっては、より一層の漁業者等の雇用促進を図られたい。このことについて国の考えを伺いたい。

(回答)

  • 諫早湾地域の関係漁業者と学術経験者、行政機関で本年10月組織された「諫早湾地域資源等利活用検討協議会(以下「検討協議会」という。)」において、地域の漁業振興策の検討がなされていると聞いている。農林水産省として、そのとりまとめ内容等を踏まえ、緊急に実施するもの、更なる検討が必要なものなど、具体策が出た段階で、それぞれの対策の内容により適切に対応して参りたい。
  • また、検討委員会においては、調整池排水の環境配慮対策として導流堤などが出されていると聞いており、貴県から具体策が出された後、内容に応じ積極的に対応して参りたい。
  • 現在、干拓地内などで実施してい維持管理作業に漁業者等の雇用を図っているところであるが、干拓事業の工事についても、平成14年1月を目途に再開する。
  • なお、県におかれても、漁業振興策や地域の雇用促進について特段のご配慮・ご協力をお願いしたい。

4.営農計画の早期実現について

 本干拓地では、法人経営の参入促進、環境保全型農業の推進を図ることとしており、早期にこのような営農が定着するよう努められたい。また、全国的なモデル地区といわれるよう、本県としても努めるが、国においても本地域の営農の確立や先進的な農業が展開されるよう配慮願いたい。このことについて国の方針を伺いたい。

(回答)

  • 営農計画の早期実現に向けて、県と十分連携を図りながら国としても全力をあげて対応して参りたい。
  • なお、本事業における営農計画の推進に当たっては、
     (1)農林水産省においては、平成12年5月18日に「諫早湾干拓営農推進チーム」を設置し、営農計画の推進のための体制整備を図っているところであり、
     (2)また、九州農政局にあっては、「九州農政局諫早湾干拓事業推進対策本部」の下部組織として、貴県を含む体制を平成12年3月31日に整備し、
    具体的課題の解決に向けた検討を行っているところであり、法人経営の参入促進や環境保全型農業の推進についても積極的に対応して参りたい。

5.費用負担について

 効果の発現に見合う適切な地方負担とすること。併せて、見直しによって農地配分価格が増加しないよう、これらの費用については、国において負担すべきと考える。また、環境への配慮という観点から管理費の増大が今後懸念されるところであるが、管理者の負担が過剰にならないよう国において配慮すべきと考えるが、これらの費用負担について国の考えを伺いたい。

(回答)

  • 農家や農業生産法人への農地配分価格は現計画と同じく、約70万円台/10aとするよう努める。

6.工事再開について

 国は、諫早湾干拓事業の実施方針において「予定された事業期間の厳守」を明言されている。これを実現するには、工事を早期に再開することが前提であり、工事再開の目途が立たないままでは見直し案自体の実現についても疑問を持たざるを得ない。工事再開に係る国の方針と再開の保証を明確にしていただきたい。

(回答)

  • 工事については、平成18年度の完成を目指して、平成14年1月を目途に再開することとし、この旨を平成13年12月6日付け13九整第1279号で意見照会した文書においても明らかにするとともに、平成13年12月7日大臣定例会見において農林水産大臣から発表したところである。

7.水門を開放しての調査について

 排水門を開放しての調査は、ノリ不作等対策関係調査検討委員会において検討されており、長期調査、常時開放といった議論までなされている。国は検討委員会の意見を尊重するとしており、この内容によっては、見直し案に大きな影響を与えると考えられる。ノリ委員会の方針と見直し案との関連をどのように処理されようとしているのか伺いたい。
 また、排水門を開放しての調査は、ノリ委員会においても開放したときの様々な問題点が指摘されている。漁業や背後地への影響については、予測不可能な点が多く、開門調査については容認できない。潮受堤防の管理は、国営諫早湾土地改良事業計画に基づく管理を前提として、県が受託しているが、開門調査を前提として事業を進めるのであれば、国で管理されたい。

(回答)

  • 現在、排水門を閉じたまま、「1年間の現状調査」を実施しているところであり、「排水門を開けての調査」については、閉門調査を終了した後に、地元のご理解とご協力を得た上で、適切な時期に速やかに行うこととしたいと考えている。
  • 具体的な開門調査の方法は、委員会において検討されているところであり、調査に当たっては、地元の不安が解消されるよう十分な説明と対策を行い、理解していただき進めたいと考えている。