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有明海評価委「中間とりまとめ」に対する
諫早干潟緊急救済本部・東京事務所の意見

 諫早干潟緊急救済本部と同東京事務所では、有明海・八代海総合調査評価委員会が2006年2月28日に公表し、環境省が意見募集を行っている「中間取りまとめ」に対して、以下の意見を3月12日に提出しました。


有明海・八代海総合調査評価委員会
「中間取りまとめ」に対する意見

2006年3月12日
諫早干潟緊急救済本部
                     諫早干潟緊急救済東京事務所

  有明海・八代海総合調査評価委員会(以下、評価委)が2006年2月28日に公表した「中間取りまとめ」について、環境NGOの立場から、特に諫早湾干拓事業に関連する事項と、委員会の運営や審議のあり方全般について意見します。

1・「中間取りまとめ」と委員会の運営全般について

 今回の「中間取りまとめ」では、有明海に関する各種の調査・研究が並列的に両論併記の形で収録されているだけで、それらを総合的に評価して今後の対策を取りまとめるまでには至っていません。「中間取りまとめ」の最終章「委員会報告にむけた検討課題」の4.1でも、そのことが報告されています。しかし、有明海の環境悪化や漁業者の逼迫した状況を考えると、評価委での検討作業の進行は遅すぎると言わざるをえません。

 現時点での原因・要因の検討結果として「図 4.1.1 問題点と原因・要因との関連の可能性(検討中):有明海」が掲載されていますが、このフロー図は、かつて有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会(以下ノリ第三者委)で提起されたものに、新たな要因や関係が書き込まれて複雑化しただけの結果となっています。評価委での検討は、原因の特定、各要因の定量的な評価へと進むことが期待されていましたが、それらは今後の課題とされています。

 続く4.2では「再生に向けた、具体的かつ実施可能な対策の選択肢を検討し、関係機関への提言としてまとめていく必要がある」との方針が掲げられています。評価委の設置目的であるような文言が「中間とりまとめ」の時点でも繰り返されているだけで、再生策の具体像はこの報告からは見えてきません。4.3の「調査研究・監視の総合的推進」との方針も、評価委員会発足当初から課題として挙がっていたことで、この項で記述されている「マスタープランの策定」も、一部の委員や私たちNGOが早い段階から要望していたことでした。

 このような作業の遅延は、諫早湾干拓事業を有明海の環境異変の原因として、正面に見据えていないことによる、検討作業の空回りに起因するものではないでしょうか。
 今回の「中間取りまとめ」においては、諫早湾閉め切り以降の潮流・潮汐の変化や、赤潮の頻発化、底質の泥化、魚類の著しい減少など、諫早湾干拓事業が原因であることを直接・間接的に示唆する記述が多く見られます。しかし、第1回会合で環境省の吉田水環境部長から「個別の事業についてここでご議論いただくというのは、直接の評価委員会の設置目的に合わない」との発言があったように、評価委では諫早湾干拓事業について立ち入った議論は行われていません。諫早湾干拓事業が有明海の環境悪化の少なくとも原因の一つであることは、多くの研究者が認めるところです。評価委は諫早湾干拓を主因と想定しての対策を早急に検討すべきです。

2.中・長期開門調査と原因裁定・専門委員報告書の取り扱いについて

 諫早湾干拓問題に関しては、中・長期開門調査に関する審議内容の報告が、「中間取りまとめ」には記載されていません。中・長期開門調査の見送りについては、第9〜10回の評価委で、委員長を含め複数の委員からこれを不服とする強い意見が出されました。評価委はノリ第三者委員会の事実上の後継機関であり、開門調査に関する委員会の見解をきちんと報告すべきです。
 第10回の会合で、委員長は「行政的判断では仕方がない」という趣旨の発言をし、それ以降、評価委での開門調査に関する議論は打ち切られてしまいました。しかし、参考人として出席した堤裕昭氏や佐々木克之氏の意見にもあったように、開門調査は諫早湾干拓事業の有明海への影響を検証し、再生にも寄与する有効な手立てであることは変わりありません。漁業者が干拓工事差し止めを求めた仮処分における各裁判所の決定や、公害等調整委員会での原因裁定でも、国が中・長期開門調査を見送ったことへの批判が示唆されています。評価委は開門調査に関する議論を忌避せずに、有明海の総合的な調査案の一つとしてその実施を再度提言すべきです。

 なお、原因裁定における専門委員報告書は最先端の科学的研究成果であり、評価委においても参照するように、第16回の会合で委員から提案があったにもかかわらず、報告書は「非公開」という委員長や事務局の「思い違い」から取り扱えないとの決定がなされました。第18回で改めて公害等調整委員会に提供を要請することになったものの、「中間取りまとめ」に専門委員報告書の内容が反映されなかったことは大変残念です。専門委員報告書では、気象、海象を原因とする主張が否定されるとともに、有明海の一部の海域においては諫早湾干拓事業との因果関係が示唆されています。今後の評価委では、専門委員報告書の内容を踏まえた検討を行うことが求められます。

3.まとめ

 評価委の検討作業について意見を述べてきましたが、自然の複雑な現象をすべて完璧に解明することは困難であり、それを待っていては有明海再生の時機を失することも考えられます。前述したように、まずは諫早湾干拓を原因と想定した、中・長期開門調査を早急に実施し、調査の結果が出るまでは、予防原則の見地から諫早湾干拓事業を中断するべきです。
 さらに評価委の最終報告においては、有明海の根本的な再生策として、干拓や埋め立てといった有明海沿岸の開発を禁止し、河川や森林など集水域の環境保全を担保するような施策の提言が行われるよう要望します。



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