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中・長期開門調査見送り表明に対する
諫早干潟緊急救済本部の声明


 2004年5月11日の会見で、亀井農水大臣が有明海の中・長期開門調査見送りを正式に表明したことに対し、諫早干潟緊急救済本部と同東京事務所は5月14日に以下の声明を発表しました。


2004年5月14日

【抗議声明】

  私たちは、沿岸住民の総意を踏みにじり、瀕死の有明海を見殺しにする
  不当な「政治決断」に厳重に抗議する!
  農水大臣は、中・長期開門調査の見送り表明を撤回せよ!

諫早干潟緊急救済本部
   代表 山下 八千代
諫早干潟緊急救済東京事務所
   代表 陣内 隆之

 私たちは、亀井善之農水大臣が、「中・長期開門調査」の実施を見送り、小手先の代替策で有明海再生に努めると表明したことに厳重に抗議する。
 私たちは、今後とも、有明海の再生を目指す、すべての漁民・市民・自治体・議会関係者・NGOなどと協力・連携しながら、農水省に対し、「中・長期開門調査」の実施と、潮受堤防の撤去を含めた諫早湾干拓事業の見直しを迫っていく決意である。

 今回の農水大臣の「中・長期開門調査」見送り表明に対しては、すでに各方面から批判が寄せられているが、あえて下記の3点について、その問題点を指摘する。

1.農水省が示した「中・長期開門調査」見送りの理由は、調査による被害を誇張し、期待される成果を矮小化しただけのものにすぎない。

 2001年12月に、ノリ第三者委員会が開門調査の実施を提言してから、すでに2年5ヶ月が過ぎようとしているが、開門調査の「被害を抑制し、成果を高めるための検討」を農水省は、徹底的にサボタージュしてきた。
 具体的には、海水を導入する際の調整池の水位変動幅や、導入する海水の流速のコントロールなどの問題と、排水門などの周辺設備の補強などであるが、これらの課題は、ノリ第三者委員会の2001年の提言の中でも、ほぼ整理されていた。
 にもかかわらず、農水省はこれらの課題を、事実上、放置してきたのである。
 今日においても、中・長期開門調査が実現していないのは、それが困難だからというよりも、むしろ、農水省が、開門調査の方法を意図的に硬直化させ、調査を実施するための現実的な工夫を怠ってきたからである。
 私たちは、このことにおいて、まず農水省を強く糾弾するものである。

 具体的な論点について以下に述べる。

1)開門調査による有明海の漁業への「被害」とは、調整池内部の水質・底質の悪化を前提として、海水導入により巻き上げられた底泥が有明海に放出されることとして想定されている。
 これに対しては、水門操作により、導入する海水の流速を制御することや、海水を導入した際の凝集・沈殿効果によって、底泥の巻き上げ・放出を抑制できるというのが、専門家の指摘であり、事実、短期開門調査は、その方法で実施され、調整池の水質は、むしろ改善したほどである。
 言い換えると、中・長期開門調査の実施は、誠実に検討すれば、けして不可能なことではなく、中長期的には大きな環境改善が期待できるのである。
しかし、農水省は、早期の事業完成のみに腐心して、「長期間・莫大な費用を要する大々的な対策工事」と科学的根拠の疑わしい「深刻な被害」の二者選択を迫ってきたのである。
 端的に言って、これは「脅し」である。一体、これが行政府のすることか!

2)開門調査によって得られる「成果」が限定的だとすれば、その最大の要因は、海水を導入する際の調整池の水位変動幅を20cmに固定したことである。
 水位変動幅については、2001年12月のノリ第三者委員会の提言において既に
「洪水・潅漑期以外は水位管理の条件をゆるめ、できるだけ毎日の水位変動を大きくし、できる干潟面積を増やすことが望ましい。」
と述べられているが、農水省は、柔軟な水位管理については、全く検討することなく、「水変動幅を20cmに固定するか、さもなければ常時開放」という極端な想定しか行わなかった。
 このような極端な条件設定こそが不誠実極まりないものである。第三者委員会の提言を真摯に受け止め、最大の成果を上げるべく、検討を尽くすことこそが、行政の仕事ではないのか!

2.農水省が示した「代替策」こそ効果が疑わしく、この期に及んでこのような対症療法的な対策を示すこと自体、農水省自らが招いた「有明海異変」の深刻さを全く理解していないことの証拠である。

 農水省が示した代替策は、「海底耕耘・覆砂・湧昇流を起こす施設の設置」等とされているが、これらの措置が、有明海異変をどのように改善するのか、その根拠は全く示されていない。

 海底耕耘・覆砂などは、既に実施されていることであり、むしろ、これらの効果が疑問視され、有明海の海洋環境を攪乱する可能性さえ指摘されている。
 「湧昇流を起こす施設の設置」に至っては、正気の沙汰とは思えない。有明海は、潮流・潮汐の複雑かつ微妙なバランスの上に、極めて多様で生産性の高い生態系が成立していた。そこに、諫早湾干拓事業による諫早湾の閉め切りが悪影響を及ぼしたとされているにもかかわらず、この上さらに人工構築物で、有明海の流動を変化させようというのか。
 そもそも、これがどの程度の規模を想定したものかも定かではないが、実際の潮汐や波動に影響を及ぼすものだとすれば、それによる漁業への悪影響についても当然、慎重に検討されるべきである。このように無造作に提示されること自体、農水省の認識を疑わざるをえない。
 また、中・長期開門調査に要する「大々的な対策」を脅し文句に開門調査を見送ろうとしておきながら、代替策には費用をかけることは、全く支離滅裂である。
 本当の狙いは、新たな公共事業をバラ撒くことにあるのではないか。

3.度重なる漁民の訴え、沿岸自治体の決議など「中長期開門調査」を求める切実な声を、農水省は理解しているのか?

 これまでも、農水省は、諫早湾干拓事業に反対する多くの声を無視し、長崎県や諫早市など、干拓事業に賛成する自治体などの意見ばかりを聞き入れてきた。
 しかし、中・長期開門調査の実施は、有明海沿岸の全ての漁民の悲願であり、福岡・佐賀・熊本の県議会でも全会一致で、調査の実施を求める決議が採択されている。沿岸市町村を含めると、自治体決議は30にも及び、中長期開門調査の実施を求める声は、極めて大きい。
 このような大きな世論を一方的に切り捨て、子供だましにも劣るような代替策で中・長期開門調査を葬り去ろうとしているのが、農水省の本質である。
 もはや農水省は、行政府としての責任を完全に放棄したものと言わざるを得ない。

 繰り返すが、農水省の本来の役割は、開門調査の「被害を抑制し、成果を高めるための検討」だが、実際に農水省がやってきたのは、この正反対のことであった。
 自らが設置した第三者委員会が、科学的な検討の末に提言した中・長期開門調査について、それが及ぼす最大・最悪の被害を、省を挙げて検討・宣伝してきたのが、農水省の実態なのである。

 以 上


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