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中・長期開門調査見送り表明に対する
漁民・市民ネットワークの声明


 2004年5月11日の会見で、亀井農水大臣が有明海の中・長期開門調査見送りを正式に表明したことに対し、有明海漁民・市民ネットワークは5月13日に以下の声明を発表しました。


農林水産大臣 亀井 善之 殿

2004年5月13日
有明海漁民・市民ネットワーク
代表 松藤文豪

亀井農相の「中長期開門調査見送り表明」に抗議する緊急声明(3)

 私たちは、4月26日および4月30日の2度にわたって「緊急声明」を発表し、中長期開門調査見送り方針の撤回を強く求めてきたところである。しかるに一昨日、亀井農相は正式に見送り表明を行った。私たちはここに、満腔の怒りをもって抗議するものである。

1)省みれば武部農相時代の一昨年4月15日、大物与党政治家を交えた不明朗な「深夜の密談」での政治決着によって、既に今日のシナリオは出来ていたに違いない。その後の私たちの必死の要請に対する農水官僚の支離滅裂な回答ぶりからも、また遮二無二工事を進める姿からも、中長期開門調査は見送るという「結論ありき」の省内の実相は、容易に見て取ることができていたのである。

2)農水省や族議員が、なぜ「結論ありき」で暴走してきたかは明らかである。ひとたび中長期開門調査を実施に移せば、それでなくても次々に証拠が挙がっている諌干主因説を自白せざるを得なくなると重々承知しているからに他ならない。自ら推進してきた事業が、無駄であるだけでなく有明海を破壊した有害公共事業だったとなれば、農水省のみならず与党も失政責任が厳しく問われるだろう。
 そもそも有明海異変の主犯と疑われている事業を主管する農水省自らが、中長期開門調査を行わないという決定を行うこと自体が、容疑者が判決を無視して自ら勝手に無罪を宣言し、今後も諌干という犯罪を完遂しようとするようなものである。無理が通れば道理は引っ込み、有明海と漁民および沿岸地域経済までが抜き差しならない窮状へ追い詰められていくのだ。既に漁民の自殺者が出ている。

3)こうした「結論ありき」という無理な動機に基づく見送り方針のゆえに、農相が挙げた見送りの「根拠」に合理的根拠は見いだせず、官僚が知恵を絞った「代替策」も彌縫策にすらなっていない。
 見送りの根拠について農相は「中・長期開門調査を実施する事による海域への影響についてコンピュータによる再現も含めて検討を行わせた結果、有明海のノリ漁を含めた漁業環境に影響を及ぼす可能性がある」と述べている。この点について当初農水省は、昨年11月19日に開催された中・長期開門調査検討会議専門委員会の第6回会議で配布した資料3「開門方法の考え方等について」の36ページにおいて、「排水門近傍で局所的に速い流れが発生し巻き上げられた底泥は、諌早湾内に拡散し漁場への悪影響が懸念される」と説明していた。最初からの常時全開という最悪のケースを想定したシミュレーションではあるが、確かに図を見ると1000mg/Lを越えるような高濃度の浮遊物質は湾内に拡散し、行きつ戻りつしながら徐々に湾内で沈降する様子が描かれている(この問題について私たちは緊急声明1で湾内漁業被害を避けるための提案を行った)。ところが今回、農相の正式発表に合わせて配布された「漁業関係者の皆様へ」という文書の「補足資料1」の4ページには「排水門の常時開放によりガタ土が有明海に広がる様子」として「ガタ土を含んだ水」が開門30日後には「熊本沖に接近する」ことを示すシミュレーション図が掲載されている。11月には「底泥」の流出を問題にした筈だが今度は「ガタ土」だと言い、しかも範囲が有明海にまで広がっている。ガタ土とは、それが速い流速で「えぐられる」(洗掘される)と言う以上は、水門内外の海底の硬い土を指しているのだろう。洗掘を防ぐ簡単な捨て石工も施さないという最悪のケースでのシミュレーションとは言え、調整池の海底に沈降している軟らかい底泥や池内を漂っている浮泥は湾内で沈降するはずなのに、今度はなぜ「土」を含んだ水がそのまま有明海に流れ出ていくと言えるのだろうか。たしかに昨年11月の資料には開門60時間後までしか描かれていないし、浮遊物質(SS)を指標としたシミュレーションだったが、あれを今回の説明資料1と同様に30日後まで描き続けると、湾内で一度沈降したはずのSSが熊本沖に運ばれていくとでも言うのだろうか。しかし今回の資料には何を指標としたシミュレーションなのか、またその濃度凡例も示されておらず、どの程度の「土」が有明海に拡散するのかは全く示されていない。11月の資料に描かれた拡散する濁りの先端は5〜10mg/Lの平常値でしかない。洪水時でも湾内が濁らないのは塩析効果で浮泥や底泥やガタ土がすぐに沈降するからであるが、開門調査時に限って有明海に流出するという農水省の説明はまことに不可解であり、何らの科学的根拠もなしに漁業関係者の不安を煽ることのみを意図した説明だとしか言いようがない。説明内容自体が二転三転するのはなぜなのか、私たちは最早農水省を信用できない。
 しかも農相は、中長期調査に代わる方策として、「調査」、「現地実証」及び「調整池の水質対策」を進めると表明したが、いずれも問題が多い。
 (1)いかに莫大な調査予算をつぎ込んだ一斉調査を行おうとも、閉門したままの状態での調査の繰り返しでは、まさにその「調査の効果」は疑わしい。開門時と閉門時を比較するという調査方法で簡単に諌干が環境に及ぼした影響を調べることが可能なのにこれを行わないという姿勢では、農水省に「環境変化の仕組みの更なる解明」すら期待することはできない。
 (2)「海底耕うんや作澪、勇昇流を起こす施設の設置など現地での実証」をしても無駄であり有害になる可能性すらある。底質が細粒化しヘドロがたまり、あるいは海流が停滞して貧酸素水塊を発生させている海域がどれだけの広さにわたっているかを農相はご存知だろうか。たとえ強引に「効果が実証された」ことにしたとしても、その後、効き目が長続きしない作業のために毎年一体どれだけの人員や機械を導入し、どれだけの数の勇昇流施設を設置するつもりなのか。このように非現実的な施策しか掲げられないのは、諌干問題の解決抜きに有明海再生の方策は他にあり得ないことを雄弁に物語っている。
 (3)「環境保全型農業の実践による流域の負荷削減対策、地域住民の協力の下での生活排水対策」は、これまでも掲げられてきており、調整池の水質浄化効果は期待できず、むしろ諫早湾の貧栄養塩化に拍車をかける結果にすらなりかねない。また潜堤や水生植物による「浄化装置」であの調整池内の水質が浄化され淡水プランクトンの増殖が抑えられるはずがない。水流の淀みを助長し、腐敗した植物はチッソの除去どころか増大にさえつながりかねない。何よりの水質浄化策は、海水導入と干潟再生以外にありえないことは誰も否定しえないのだ。
 このように代替策は総じて、農水省が本気で有明海の再生を願い、再生の道筋を示し得ているとは全く思えないものである。

4)農相はまた、「漁業者や行政による新たな話し合いの場を早急に設置することとし、その場での話し合いの内容を今後の取り組みに反映させてまいる所存であります」としているが、その目的は不毛な「調査」や「現地実証」のためであり、これは事実上、中長期開門調査を断念した漁業者にしか話し合いの門戸を開かないことを意味しかねない。しかも私たちの2度の緊急声明での具体的提案や質問には、本日に至るも一片の回答すらないままに最終発表を行ってしまったのが農水省の実際の姿であり、いわば「聞き置く」だけの場の設置に意味があるとは思えない。そうした「場」を設置するというなら、それは中長期開門調査見送り表明を撤回したうえでの、実施を前提とした真摯な話し合いの場でなければならない。

5)したがって私たちは、今後とも中長期開門調査の実施を粘り強く要求していく。なぜなら開門による諫早湾の一刻も早い環境回復が有明海の漁場回復に結びつくからであり、さらには環境回復に必要な将来復元すべき諌早干潟の面積や、潮流回復に必要な潮受け堤防の処理方法を科学的に検討するためには、水門の常時開放による調査が必要だからである。

以上


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