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有明海評価委へ開門調査提言などを要請

 有明海漁民・市民ネットワーク、諫早干潟緊急救済東京事務所は、有明海・八代海総合調査評価委員会に対し、2月23日に下記の要望書を提出しました。この要望書では、同委員会として中・長期開門調査実施の提言を行うことやや、有明海環境調査のマスタープランを主体的に策定すること、早期に中間報告をまとめ、有明海特措法に基づく基本方針の改定を行政側に促すことなどを求めています。


有明海・八代海総合調査評価委員会 委員各位
同事務局 環境省閉鎖性海域対策室長 殿

2004/02/23
有明海漁民・市民ネットワーク
諌早干潟緊急救済東京事務所

要 望 書

 委員の皆様には、有明海・八代海再生のために、真摯な検討を重ねられていることに対し、心から敬意を表します。
 さて有明海では、今期のノリ養殖も秋芽網が史上最悪となりました。漁業者の疲弊ぶりは極限に達しており、一日も早い実効性ある再生策の実施が待ち望まれている所以です。そうした中で去る1月26日に開催された第7回委員会の議論において、私どもは有明海再生に関わる数々の重要な課題が浮き彫りになったものと考えています。つきましては貴委員会において下記要望項目をご検討いただきたくお願い申し上げる次第です。

1. 評価委として中・長期開門調査の提言をしてください。

 「農林水産省有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会」(以下ノリ第三者委)が「諫早湾干拓地排水門の開門調査に関する見解」を提言して既に二年有余が過ぎています。ノリ第三者委が「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定され、また、開門調査はその影響の検証に役立つと考えられる」とした点は、私どもはこの間の最新の調査研究の結果に照らし合わせても、ますます明白になったと考えていますが、貴委員会としてもこれを緊急に評価し、改めて中長期開門調査実施の必要性を提言して頂く必要があると思います。と言うのは、農水省は今年度中にも中長期開門調査の実施の可否について結論を発表することとなっているからです。

 農水省がその判断を行う場合に依拠するのは「中長期開門調査検討会議報告書」が中心となりますが、1/26の第7回委員会においては、同報告書及びその基礎とされた「開門総合調査報告書」や「有明海海域環境調査報告書」に対する根本的な批判が委員の皆様から噴出しました。同様な趣旨で有志研究者も農水省に1月21日に申し入れを行っています。このように科学的に問題のある報告書に基づいて開門調査を実施しないという行政判断をされてしまっては、有明海百年の計に禍根を残すこととなるのは明らかです。これは貴委員会の存在理由を否定しかねない重大問題であり、評価委としての明快な判断が求められています。

 したがって上記3報告書に係る再説明と議論は、1/26委員会で疑問を呈した委員に対して個別に行うのではなく、別途「公開討論会」の場において集中審議を行うこととし、その間農水省には行政判断を差し控えるよう求めるべきです。ともすると、この種行政の審議会では、会議の場で委員が重要な指摘をしたり意見を述べたとしても、後日行政担当者が委員を直接訪問し、委員会の外での個別説明だけで当該テーマの議論が終わってしまうことがありがちです。これでは実質的に審議の経緯が不透明になり、その結果行政に都合の悪い意見が闇に葬り去られることにもなりかねませんので、審議会の公開性や公正性を確保する観点からも、貴委員会ではそのようなことがないよう、説明や議論は公開の場で行うよう強く求めます。

 なお1/26委員会において滝川委員から「すでに公開されている」と発言のあった国調費の「モデル専門部会」議事録は、実際にはまだ公開されていませんし、さらには評価委の議事録公開に毎回非常に時間がかかりすぎている現状についても、委員会や事務局として善処方をお願いしたいと思います。

2. マスタープランは評価委の責任で作成すべきです。

 マスタープランないし全体調査計画は現在、各官庁が個々に作成し実施に移されていますが、このような体制で調査・解析・評価を行うことこそが、研究者の求める中・長期開門調査が未だ実施されない原因の一つであると思います。マスタープランは本来、有明海・八代海が疲弊してきた原因の科学的究明にはどういう調査が必要か、また再生の道筋を示すためにはどういう調査が必要かという観点から、評価委自らが科学的視点から原案を作成し、それに基づいて国や県が調査の具体化を図り実施に移すというのが本来あるべき姿ではないのでしょうか。第3回委員会で配布された「(付表)調査の課題・内容等及び特別措置法第18条第1号各号との関係」は、あくまでも行政側が予定している諸調査の整理であり、今後評価委で作成されるだろうマスタープランとの再調整が必要になるべきものと私たちは理解しています。中長期開門調査を含む必要な調査の行政への要請は、有明海・八代海総合調査評価委員会令第八条に「委員会は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。」とされている通り、評価委には可能なことと考えます。こうした法的裏づけのなかったノリ第三者委においては、調査計画は各省庁からの事後説明を受けるだけの態勢にとどまっていたため、異変原因の究明を直接の目的とした調査体制はきわめて不充分なものでした。特に異変の原因として最も疑われている諌早湾干拓に関わる調査体制が、今もって不充分なまま放置されていることは看過し得ません。

 たとえば農水省によるモニタリング観測網からは有明海が除かれたままになっていますし、調整池内の水質調査も表層だけであり、底層や底質は除かれています。またノリ第三者委や評価委でも委員から指摘されたことですが、「排水はどこにどう流れていっているのか」というような、本来真っ先に調査すべきことすら実施されていませんし、通常はもとより短期開門調査中でさえも観測ポイントは調整池や諌早湾内にとどまり、有明海には十分な観測体制が敷かれませんでした。諌早湾干拓以外の各公共事業と海の変化との対応関係の調査も必要なはずですが、今日まで行われてきた採砂や筑後大堰などに関する詳細なデータの収集や集中的調査も行われていません。

 ノリ第三者委の最終報告書が歯切れの悪いものとなる誘因となった既往の各種調査の内実も、改めて再検討すべきであると考えます。たとえば海上保安庁の潮流調査は、73年調査と厳密な比較が可能なようなポイントと調査方法で再調査を行う必要があるでしょうし、浅海定線調査についても県の担当者自らが「科学的利用に耐えうるデータではない」旨述べているように、調査手法には問題点があると指摘されています。プランクトン沈殿量調査だけでなくクロロフィル量調査を追加するなど継続性に配慮しつつも科学的調査方法に改めるべきです。
 数値シミュレーションモデルの再構築を含め、以上のような点を盛り込んだマスタープランを、評価委において早急にまとめ、国や県に調査の実施を促してくださるようお願いいたします。

3. 評価委中間報告書を早急にまとめてください。

 評価委設置後既に一年以上が経過しました。法律によれば貴委員会は5年後の法の見直しに関して再生に係わる評価を行うと謳われていますが、実際には昨年の第1回評価委開催の前日に関係6省が決定した「有明海及び八代海の再生に関する基本方針」(http://www.env.go.jp/press/file_view.php3?serial=4308&hou_id=3909)に沿って、覆砂や下水道整備などを中心とする再生事業が走り出しているのが現状です。この基本方針を定めるに際して実施されたパブリックコメントに応募した私たちNGOの意見は、残念ながらあまり取り入れられませんでしたが(http://www.maff.go.jp/www/public/cont/20030131kekka_1.html)、問題の多い基本方針を正すためには、法律の見直しを待つのではなく、早急に中間報告を取りまとめて頂き、せめて現行基本方針の改定を行政側に促す必要があるのではないでしょうか。

 たとえば事業者自身も認めるように、諌早湾内の潮流は極端に減少していますし、有明海の潮流さえも減少したという注目すべき調査結果も発表されています。私たちはこの潮流減退こそが、湾内はもとより有明海の生態系を破壊し漁業不振をもたらしている根本原因であると考えていますが、この点について貴委員会として緊急に評価をし、諌早湾・有明海再生のための新基本方針を中間報告に盛りこむべきです。少なくとも諌早湾の環境破壊の原因はすでに科学的にも明々白々のはずなのですから。

 また評価委でも既に議論されている採砂や覆砂の問題、ノリ養殖と負荷削減策の矛盾についての問題などは、中間報告で早急に指摘していただかねばならない事項だと思います。なぜなら、今後とも潮流の回復策に手を付けないままに富栄養化対策のみが進められれば、ノリ養殖は栄養塩不足でますます苦境に陥るでしょうし、又潮流の回復なしにどんなに覆土や覆砂を行っても、2〜3年後には底質が悪化しますから無駄な投資になりかねません。潮流と諌早干潟の回復策提言を基本とした中間報告の早急な取りまとめをお願いする次第です。
 
 以上、委員の皆さまのご検討のほどをよろしくお願い申し上げます。


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