諫干縮小見直し案に対する反対声明を発表
10月30日の
農水案を撤回し、干潟復元を基本とした見直し案を!

  諫早干潟緊急救済本部と諫早干潟緊急救済東京事務所では、農林水産省が長崎県などに10月30日に提示した諫早湾干拓事業の縮小見直し案に対し、以下のような反対声明を11月6日に発表しました。
 この声明は、今回の見直し案では諫早湾の干潟生態系の復元はまったく考慮されておらず、諫早湾や有明海の環境再生は困難であることから、これを撤回し、改めて有明海再生と背後地防災機能の両立を基本とした抜本的な見直し案の策定を求めるものです。

 声明文は、11月6日に農林水産大臣や長崎県知事など関係自治体の首長と、記者クラブなど報道機関に対して送付いたしました。


2001年11月6日

諫早湾干拓事業縮小見直し案に対する反対声明

諫早干潟緊急救済本部    代表 山下八千代
諫早干潟緊急救済東京事務所 代表 陣内 隆之

 国営諫早湾干拓事業について、去る10月30日、農林水産省よりいわゆる事業縮小による見直し案が提示されました。これは、8月28日の大臣談話で示された四つの視点から総合的に検討した案とされていますが、私たちはこの検討案では有明海の再生は困難であると考えており、これを撤回し改めて有明海再生と背後地防災機能の両立を基本とした抜本的な見直し案の早急な提示を求めます。

●干潟生態系の回復と有明海再生への配慮こそが、本当の「環境への配慮」である。

 そもそも今回の事業見直しは、去る8月24日に答申された国営事業再評価第三者委員会の「環境への真摯かつ一層の配慮を条件に事業を見直されたい」との答申を受けて行われるものです。その後示された先の四つの視点を受けて、私たちは9月11日付けでこの事業再評価結果と今後の見直しに対する意見書を提出し、この視点そのものの問題を指摘しました。今回の検討案提示によって、私たちの懸念はよりはっきりしてきました。特に「環境への一層の配慮」が、淡水性の生態系が定着している現状の追認を基本としていることに驚きを隠せません。再評価第三者委員会が求めた「環境への一層の配慮」とは、このようなまやかしの内容ではなかったはずです。委員は、失われた干潟の浄化能力の評価、事業と“有明海異変”との因果関係の解明に関心を示し、これまでの事業が環境への配慮に欠けていたという反省から、事業を中止或いは休止して見直すことを求めていました。このことは、干潟生態系の回復と有明海再生への配慮が見直しの条件だったことを示すものです。

●有明海再生には、潮流・潮汐の回復と西工区も含めた全面的な干潟復元が必要である。

 今回の見直し案は、東工区の干陸化は断念するものの、西工区の造成及び淡水化計画は予定通り行うこととしています。しかし、西工区はかつての諫早干潟の中でも特に重要な役割を果たしていました。有明海再生のためには、復元が欠かせない地域です。そして干潟復元のためには、大量の海水の出し入れが必要であり、少なくとも排水門の常時開放が欠かせません。また潮流・潮汐の回復のためには、潮受け堤防の撤去または開削も必要です。単に東工区造成を断念しただけでは有明海再生につながらないばかりでなく、そもそも何のために東工区造成を断念したのか、縮小案の目的そのものが不明です。

●背後地防災と干潟復元との両立は可能である。

 水門開放や潮受け堤防の撤去によって懸念される防災機能の低下は、旧堤防の嵩上げ改修や旧樋門の整備、湛水対策としての排水ポンプやクリークの整備を行うことで解決できます。むしろ背後地防災機能の充実を図るためには干拓事業だけでは不十分であり、これらの施策が干拓事業の有無に拘わらず必要なのです。そしてまた、それはノリ第三者委員会による開門調査を十分に行うためにも必要なことであり、事業者はこれら対策を早急に行う責務があります。
 またこのための費用は国が負担すべきものであり、干拓事業費の残額240億円も、内部堤防や農地造成に使うのではなく、ポンプの設置費や維持費など本来必要な背後地防災対策費の一部に振り向けるべきです。これは諫早湾沿岸住民の生命・財産を守るためなのですから、県や地元市町村が反対するとも思われません。

●費用対効果も更に下がる縮小案は撤回すべきである。
 
 市民による諫早干拓「時のアセス」に取り組んだ私たちの試算では、当初計画でも1.00を大きく下回っていた費用対効果も、この縮小案では更に下がります。現計画試算値1.01をはじき出した農水省の前提条件に従ってこの縮小案の費用対効果を試算したところでは、1.00を大きく割り込んで0.83となります。農水省流の計算方法によっても、もはや土地改良法違反の事業となってしまうのです。「1.00を上回る必要があるのは当初計画だけで変更計画では要件とはならない」と農水省は開き直っていますが、これはまさに「小さく生んで大きく育てる」と揶揄される公共事業を推進する官僚だけに通用する論理であり、国民常識とは著しくかけ離れたものです。
 また当初は10アール当たり110万円台とされていた農地配分価格も、99年の事業計画変更で総事業費がほぼ倍増したのに74万円に抑制されましたが、今回もまた農地面積が半減するのに農水省は70万円台に押さえると説明しています。こうしたマジックは受益者が負担すべきところを国庫が肩代わりして初めて可能なことですから、本来はこの国庫負担分も総事業費にカウントすべきものです。
 このように費用対効果の面でも問題のある縮小案は直ちに撤回すべきです。

●本事業の総括をきちんと行うことが、見直しの原点である。

 一体、なぜこのような目的不明の中途半端な縮小案が出てくるのか。それは、農水省自身が事業の総括をきちんと行っていないからではないでしょうか。事業の農業目的は既に喪失していること、防災目的に照らしても不完全事業であること、有明海沿岸漁業に深刻な影響を及ぼしていること、費用対効果の面でも違法であること等、もはや事業中止しか選択の余地はありません。事業の総括がきちんと行われたならば、有明海再生と防災機能の両立が見直しの基本であることが明らかに理解できるはずであり、そのためには排水門の常時開放をはじめとする抜本的な対策が必要であること、そしてそれには事業中止の決断が必要であることが理解できるのです。事業の継続に執着し、中途半端な対応に終始する官僚の姿勢は、すべての関係者を更なる不安に陥れる結果になります。農水省の責任ある決断が求められているのです。

●市民・農民・漁民・研究者・NGOなどすべての関係者と、開かれた場で協議すべきである。

 この縮小案の説明が、長崎県及び関係自治体、推進派住民団体、漁連関係者に対してのみしか行われないことも民主性・公平性を欠いた対応と言わざるを得ません。
 事業再評価第三者委員会議事の中で、委員長は「事業の再評価について、市民・NGOなども含めて関係者による摺り合わせが必要である」旨、述べています。そして「叡智を尽くして取り組むことが緊要である」との答申を出しました。事業費の負担を広く国民から求めることから言っても、見直し作業はすべての関係者の叡智を結集し、開かれた場で真摯に検討を重ねることが本当の問題解決につながるのではないでしょうか。

●干拓工事の再開は認められない。

 このように未だ見直し過程にある中、そして現に被害を被っている一般漁民などとの合意もないままに、農水省は11月中旬にも工事を再開しようとしています。あたかも既成事実だけを積み上げて、早期に事業を完成させることしか目的はないかのようです。私たちは、このような暴挙を断じて認めることはできません。有明海再生と防災機能の両立を基本にした見直しを早期に行うことで、誰もが納得できる新たな工事も産まれ、工事関係者の期待にも応えることになるのです。その基本を無視した一方的な工事再開は、新たな混乱を産むだけであり、環境をはじめ次世代に対してもまた大きな罪を犯すことになります。農水省は、漁民・農民・工事関係者に対してこれ以上の加害行為を続けるべきではありません。


 20世紀、日本はこの諫早湾干拓事業をはじめとした数々の無駄な公共事業によって、あまりに多くの貴重な自然環境を失ってきました。そしてまた、地域住民の暮らしをも破壊してきました。前世紀の反省を踏まえ、これからの公共事業は、本来の目的に立ち返り、国民本位の自然環境と共生する無駄のないものへと転換していく時ではないでしょうか。今回の事業見直しがその手本となり、新世紀にふさわしいものとなるよう、農水省の責任ある決断を求めます。

以上


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