新刊「海を売った人びと―韓国・始華干拓事業―
故・山下弘文氏(前・諫早干潟緊急救済本部代表)の絶筆も収録

 日本湿地ネットワーク(JAWAN)では韓国の巨大公共事業、始華干拓事業について、地域の漁民の調査報告書の翻訳を1月発行しました。ここは諫早湾の閉め切りの前に既に閉め切りによる水質の悪化が深刻となり、事業者が、水質浄化のために水門を開けた場所です。汚染と干拓事業について韓国内で大きな話題となった場所で、韓国の文化人類学者たちが丁寧に聞き書きを行った調査の記録です。わずかな補償金のために豊かな海を手放した漁民たちと地域共同体がどうなったかを追う中から、この事業が「詐欺師なき大きな詐欺」であると断じ、情報公開と、参加の原則を追及することがもっとも大切であり、始華干拓事業にはそのどちらもなかったことを明らかにしています。

 日本の後を追って始めたともいえる韓国の干拓事業であり、事業者の対応や、漁民たちの生活の変化は、日本においても参考になることがたくさんあります。事業地周辺の人々への事業者の働きかけや、それによる人々の生活の変化に関する韓国の状況は、日本とほとんど変わりません。隣り合う国同士が、ともにそれぞれの湿地を保全する上でも情報交換は大切なことだと思います。ぜひ日本の皆さんにも知っていただきたいと考えています。住民の希望によるといいながらその実住民を情報から疎外するやり方ではなく、すべての関係者を巻き込んだ計画立案を基本とすべきであるというこの本が主張する考え方が広がってほしいと考えています。

 7月に亡くなった、JAWAN/諫早干潟緊急救済東京事務所の前代表の山下弘文さんも、韓国との干潟保全の協力行動を考えつつ、この本の翻訳出版を強く望んでいました。閉め切りによる淡水湖の汚染が原因で閉めざるを得なかった始華湖のことが諫早湾閉め切りの前に情報を得ていたらと、この出版を強く望み、トヨタ財団への助成金申請にも骨を折ってくださいました。

 この本は、日本湿地ネットワークとそこにつながる団体・個人の地道な交流の中から出版が実現しました。1999年1月に山下弘文さんをはじめ、JAWANのメンバーが韓国の干潟視察に行ったときに贈り物としていただいた本の翻訳です。

  • 書名:海を売った人びと―韓国・始華干拓事業―
  • 著者:ハン・ギョング、チュ・ジョンテク、ホン・ソンフプ、パク・スンヨン
        (韓国の文化人類学者たち)
       山下弘文
       (序文と諫早湾の現状の報告:亡くなる10日前に書いた絶筆の一つ)
  • 訳者:山下 亮(北大大学院博士課程)
  • 体裁:四六判 並製 310ページ
  • 発行:日本湿地ネットワーク(JAWAN)
  • 発売:南方新社
  • 定価:1900円+税金95円

▼お問い合わせ
日本湿地ネットワーク
〒1-0052東京都日野市東豊田3-18-1-105 y \7タトョpハスpPos
Tel/Fax: 042-583-6365 E-mail: TAE04312@nifty.ne.jp

※有明海のノリ被害に関連して、朝日新聞「天声人語」、毎日新聞「余録」でも本書が紹介されました。


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